恋愛ゲームの主人公、新イベント。14
アレスさんのお店は、これ一週間限定なの?ってくらい外装も内装も可愛らしかった。その上限定品のお菓子もお花や鳥が描かれた可愛らしいクッキーで、私の中の可愛いセンサーが爆発しそうだった。
「可愛い‥!!これは絶対売れますよ!」
「お陰様ですでに注文も殺到しております」
「‥‥私の仕事は必要ないのでは?」
「いいえ、絶対に必要です」
ものすごく力強く否定された。
うう‥、のほほんと温泉に浸かりながら紋様を描くと思ったのに、お誘いできたのは男の子一人だけ。これで明日お客さんが来なかったらどうしよう‥。
と、アレスさんが限定のお菓子を詰めあわせた箱を私にそっと手渡してくれた。
「これはユキさんに差し上げます」
「え?!でも、こんなに素敵なものを貰う訳には‥」
「いいえ。こうして商売を出来るきっかけをくださったのは他でもないユキさんです。少しくらいお礼をさせて下さい」
「‥常に頂いている気がするのですが?」
「それでもです」
ニコッと微笑みつつ譲る様子のないアレスさんを見て、私はもう一度手渡された綺麗な薄い黄色の箱を見つめた。こんなに素敵なのを貰って良いのかなぁ?クッキーを焼いたら確実に焦がす私がそもそもきっかけなんて恐れ多いのだが‥。
チラッとルルクさんを見上げると、ニヤッと笑って、
「いいんじゃないか?クッキーはともかくアイシングはお前がしたしな」
「‥くっ、私に焦がさないスキルがあれば!」
「爆発のスキルもあるな」
「そっちは遠慮します」
くそ〜〜!料理を焦がす私は何も言い返せない。
有り難くお菓子を頂戴して、ざっくりとアレスさんからお店の説明を受けたけれど、明日から本格的に売り出すそうだ。それを一番に購入しようとお客さんも宿に泊まる予約を入れているそうで、素直に尊敬してしまう。
「お菓子、本当にありがとうございます。それにしてもアレスさんって文官のお仕事もできて、お菓子作りもできてすごいですね」
「いえ、そんな‥」
「だってお店のデザインもお菓子も自分で考えたんですよね?素晴らしいですよ!」
「そ、そうですか?」
アレスさんが照れ臭そうに微笑むと、ルルクさんが私の手をぎゅっと握った。
何かあったのかとルルクさんを見上げれば少しだけ眉間にシワを寄せている。そういえばルルクさん、あんまりアレスさん好きじゃなかったような‥?とはいえお菓子を頂いたからね、笑顔でお願いします!とばかりにルルクさんに微笑み、
「別荘に帰ったら早速食べましょうね!」
そう言うと、ルルクさんは一瞬目を丸くしてすぐに眉を下げた。
「はいはい。お菓子は俺が持つから寄越せ。転んで壊されたら堪らない」
「失敬な。大丈夫ですよ!」
多少そそっかしいのは自覚してるけどね。
箱を大事に抱えようとすると、ルルクさんが大きな手でサッと箱を抜き取って空いた手で抱えてしまった。‥もう!ちゃんと持てるのに。
タリクさんが可笑しそうに笑って、
「ルルクさんもお菓子が好きなんですね」
「確かに。ルルクさん、何気に甘いの好きですよね」
「‥はいはい、そういうことです」
ルルクさんが呆れたようにそう言うと、ポツポツと水の音がして外を見ればザッと勢いよく雨が降ってきた。え?!あれだけ晴れてたのに雨?驚いて窓の外を見れば、向かいの店が雨でよく見えないくらいだ。
「さっきはすごく晴れていたのに‥」
目を丸くしてそう言えば、アレスさんは小さく頷いて、
「時々ここはああして勢いよく降ることがあるんですよ。少しすれば落ち着くはずです」
「そうなんですね‥」
窓から外を見れば、黒い雲から叩きつけるような雨。
なんだか幸先が悪く感じてしまうではないか。落ち込みそうになっていると、黒い雲の向こうに青空が見えた。
「あっちの空がもう明るい!」
私の呟きにルルクさんも窓の外を見て、「あれならすぐに止みそうだな」と、頷いた。本当に一瞬降って、一瞬で上がる感じなんだな。
感心しながら空を見ていると、雨が小雨になり黒い雲の間から光が差し込んできた。すると、目の前に薄っすらと大きな虹が現れた。
「わっ、ルルクさん、ほら虹です!大きいのが出てますよ!」
「ああ、綺麗だな」
「ですよね!わーー!虹が見えるなんてラッキーですね!きっといい事ありますよ!」
嬉しくて微笑むとルルクさんは私をまじまじと見つめ、ふっと小さく笑った。
「そうだな。いい事が沢山あるはずだ」
「そうですよね。お菓子も頂いたし、足湯も気持ち良かったし、そう考えると良いことがすでにありましたね」
つい目先の不安に目を向けちゃうけど、良い事も沢山あったっけと思い出した。ルルクさんの言う通り、きっと良いことは沢山ある!そう思い直して私はもう一度窓の外を見つめると、大きくて綺麗な虹が雨上がりの中キラキラと光っていた。
これ書いている時、連続で2回虹を見てまして‥。
こりゃ虹を書こう!と、思った私です(^▽^)




