恋愛ゲームの主人公、新イベント。12
紋様師の人達に挨拶をしてからギルドを出て、温泉街の方をゆっくりと歩くけれど、右手をしっかりルルクさんに握られている。
‥タリクさんとアレスさんもいるから恥ずかしいんだけどなぁ。
しかしルルクさんはいつものように平然としている。何故そんなに心臓が強いのだ。‥いや、あんだけ前世で私の首をどんな時でも平然と切ってたからそもそも強いのかな。
気を取り直して周囲を見れば、小さな川を挟んで両側に屋台やお店、温泉の案内板が目に入る。と、ふんわりと硫黄っぽい匂いがする。
「温泉の匂いがする‥」
「はい、独特の匂いですよね」
私はちょっと懐かしい感覚だけど、アレスさんは少し苦手なのか眉を寄せている。キョロキョロと周囲を見回してみると、確かに温泉を楽しむ人の数が少ないかも‥。屋台やお店にいる人の数はまばらだ。
「普段はもう少しいるんですか?」
「もう少しどころかかなり賑わってますね‥。ただ地震が起こって、そこから白の魔法石のせいで魔物が出るようになってしまって、」
「大打撃ですよね‥」
前世でも災害が起こる国に住んでいたから他人事じゃない。
特に観光業が盛んな地域なら大変だ。
温泉はいくつもあるらしく、足湯できる場所もあれば温泉宿もあるそうで、さっきギルドにやってきた男の子が店先で「温泉どうですか〜?」と、声を掛ける姿が見えた。
「あの子、さっきの‥」
ぱちっとまたも目が合うと、ちょっとびっくりしたように目を丸くして、さっと手を後ろに隠した。そんな怖がっている子に描かないし、そもそも呪わないってば。
「こんにちは、温泉ってどんなのがあるんですか?
「え?」
「ここに初めて来たから、どんなのがあるのかなって思ったんだけど‥」
私の言葉にびっくりしつつ、手を後ろに隠したまま男の子はもじもじと「‥‥でも、呪ったり」と、言うので私は膝を屈めて目線を合わせると、静かに首を横に振った。
「あのね、紋様で人は呪えないの」
「え?」
「紋様師はそういう事ができないようにお約束して仕事をするから、呪うって事はできないの」
「そうなの?」
「うん、あんまり知られてないけどね。それに私は怖がりだから、そんなの描かないよ」
「怖がりなの?大人なのに?」
「私の手、見てみる?お花と蝶だけだよ。怖いのなんて嫌じゃない?」
男の子に手の甲に描いてもらった盾の中の花と、ルルクさんに描いてもらった蝶を見せると、
「俺は、格好いいのがいい‥」
「どんなのが格好いいの?」
「剣!!騎士とか!俺、そっちがいい!」
「じゃあギルドに来れば、今ならタダで描くよ。私、剣も得意だよ!」
「本当に〜〜?」
疑いの目で見られるけど、これでもちゃんとお仕事してるもん!
ルルクさんが可笑しそうに小さく笑うと、私の頭をわしっと撫で、
「腕は確かだぞ」
と、男の子に言うと、男の子は私をまじまじと見て、「‥じゃあ、今度行く」そう小さく呟いた。
「うん!!待ってる!格好いい剣、描くね!!」
にこーっと笑うと、男の子は照れ臭そうに頷いて、ついでに後ろを指差した。
「‥後ろの温泉、足湯だけなんだけど、母ちゃんが働いてるんだ。綺麗にしてるから、その」
「足湯か〜、じゃあ入ってみるね!ありがとう!」
そう言われたら行かなくちゃね!
意気揚々とそちらへ足を向けると、ルルクさんがものすごい勢いで私の手首を掴んだ。
「ルルクさん?」
「お前、あ、足をだなぁ‥」
ほんのり赤い顔のルルクさんにハッとした。
そうでした!足を見せるのは、そのベッドへお誘い‥でしたね?すると男の子はけろっとした顔で、
「男女別にしてあるから大丈夫だよ。にいちゃん、ウブだな」
「はぁ!?」
ルルクさんが目を見開くと、後ろで聞いていたタリクさんとアレスさんが同時に吹き出した。確かにちょっと可愛い‥よね?ジロッとルルクさんが私を睨んだけど、今は怖くないもんね〜。
「じゃあ、せっかくだし入ってきましょうよ!30分したらまた店の前で!」
「あ、おい‥」
「そうですね、視察も大事ですから!」
「たまには男同士で足湯というのも良いでしょう」
タリクさんとアレスさんがルルクさんをがっちりと掴むと、ズルズルと男湯の方へ入っていった。うむ、そういう機会も大事だろう。私は私で貸し出しのタオルを借りるといそいそと足湯の方へ向かった。
今度は温泉に入りたいなぁ〜なんて思いつつ。
男の子って剣とか竜とか好きですよね‥。
私?剣とか竜が好きです!!!!
(そして全力で母に裁縫バッグで竜をセレクトしようとしたのを止められました‥)




