恋愛ゲームのキャラ設定ってどう考えるの?
翌朝、目覚めるといつも通りの時間だった。
そうだよね、ゆっくりで良いと言われてもいつもの習慣通り起きてしまうよね。
ゆっくり体を起こして、身支度してからリビングへそっと行くと、ルルクさんの長い足がオットマンにまだのったままだ。
まだ寝てるのか‥。
そりゃそうだよね、流石に疲れたよね。
そろそろと足音を立てないようにルルクさんの寝顔を見ると、眼帯が外されていて、静かに瞳を閉じて寝ている。
‥暗殺者、力は強い上に美形なんて設定、どこかに書いてあったっけ。
私が薄っすら覚えているゲームの設定を思い出すけど、そんなこと一文も書いてなかったよね‥。すでに破綻しているシナリオだし、キャラ設定なんて今更ながらに意味がないのかもしれない。
静かに腰を落として、昨日なんだかんだ言われつつ消させた何も書いてない手首を見つめる。手の甲も紋様はすっかり消えていたから、怪我は治ったんだろうけど‥、驚異の回復力だなぁと感心してしまう。
私の命を狙う人でなければ、もう少し心穏やかに接する事もできたのかもしれないけれど‥。今でも綺麗な寝顔を見ていて、大変心中複雑である。
‥私、いつまで生きていられるんだろ。
恋愛ゲームのはずが、シナリオは破綻しているこの世界。
恋をされたら殺されかけ、恋をしても殺されるかもしれない。
なんという無理ゲーの世界に私はいるんだろう‥。ただ穏やかに生きていたいだけなのに‥。はぁっと思わずため息が出ると、ルルクさんの瞼が小さく動き、ゆっくり開くと、コバルトブルーと緑の瞳がちょっと驚いたように私を見つめた。
瞳の色、綺麗だなぁ。
思わずまじまじと見ていると、ルルクさんがゆっくり体を起こす。
「‥寝られたか?」
「あ、はい!!お、お陰様で?遅くなりましたけど、おはようございます!今日は私、目玉焼きを作りますよ!」
「‥焦がすだろ」
「失礼ですね!多少の焦げもスパイスの一つですよ」
「‥お前は紋様の準備しておけ‥」
「え、」
「描くって約束した」
「も、もう?」
「‥朝飯作る前に描いておいてくれ」
そんなに気に入ったの??
とはいえ、蝶がいいというルルクさんは可愛いなぁとも思うので、私は急いで紋様液と筆と小皿を持ってくる。
「一応聞きますけど、蝶で?」
「蝶で」
「了解です。手首に描きます?」
「そうだな。こっちに描いてくれ」
そう言って、シャツの袖を捲って右手首を差し出した。
‥そんな所作だけで、イケメンは更にイケメンに見えるからすげーな。
「どんな効果にします?」
「‥魅了?」
「いや、だからありませんってば!」
「‥じゃあ、気配察知と守護力向上」
「新しいのが増えた」
「‥誰かさんはサラマンダーの前に飛び出してくるからな」
「あ、あれは!ルルクさんが心配で‥」
昨日、ルルクさんに部屋にいろって言われたのに心配で扉を開けてしまったのをチクリと言われて、私は思わず目を逸らす。
「‥かえって、手間をかけて申し訳なかったとは思いますけど‥」
「じゃあ、今度は指示を聞いてくれ。それか自分の手首に書いておいてくれ」
「うっ‥、わかりました!気をつけます〜〜」
ちょっと口を尖らせつつ、ルルクさんの手首に蝶を描いて、文字を紋様のように描くと、金色にふんわりと文字が光り、すぐに消えた。
「はい、出来ました」
「‥ああ」
「どうです?今日は結構羽を凝った形にしてみたんですけど、綺麗でしょ?」
なーんてそんなことを言ったけど、ルルクさんは蝶ならなんでもいいかな?
そっとルルクさんの顔を見ると、手首に描かれた蝶をまじまじと見つめて、
「‥飛びそうだな」
なんて言うから、ちょっと可愛かった。
暗殺者‥、可愛いの本当好きだな。
私はなんだかとても嬉しくて、ニンマリ笑ってルルクさんに笑いかける。
「えへへ、そう言われると嬉しいです。次回も頑張ってデザイン考えますね!!」
「‥ああ」
私の言葉にルルクさんはちょっと驚いた顔をすると、ふんわりとコバルトブルーと緑の瞳が和らいで、また手首の蝶を見つめるので、私は絶対次も可愛い蝶のデザインを沢山考えておこうと心の中で強く誓った。