恋愛ゲームの主人公、新イベント。1
恋愛ゲームのシナリオは終了した!
と、周囲に散る花びらとルルクさんからのキスで思っている私。というか思い込ませて欲しい!でないと私の首は一つしかないのだ。もう切られる展開はノーセンキューだ。
そして当たり前だがゲームならエンドロールが流れておしまいになるが、私は現在進行形で生きているし、前職戦士でなんなら暗殺者も若干経験ありますというルルクさんも元気に生きている。
しかも今現在、魔物の首を外で切って血抜きしてる‥。
なんで首を切って血抜きするんだ。
いや、前世でもそんな感じだったから不思議ではないし、ルルクさんは私の首をもう切ることはないとわかっているんだけど、スースーしちゃうんだよね、首‥。
「ユキ、そろそろ仕事の時間だ」
「はいっ!!」
井戸で手を洗って部屋へ戻ってきたルルクさんの声に、ハッとする。‥思考の海にまた潜ってたわ〜。そんな私にすっかり馴れているルルクさんは私の仕事道具が入った籠を手渡してくれた。あ、いつもすんません。
一緒に外を出れば、夏から少し秋の気配を感じる空。
私が蝶になって、しばらくはルルクさんに「歩くな!休んでいろ!」と言われていたけれど、大丈夫だってば〜と押しきって外へ洗濯を干そうとしたら、季節がいつの間にか進んでいるのを見て驚いたけど、日増しに季節が変わってきたな。
「秋の空になってきたな‥」
「あ、私もそう思ってました!もう少ししたら寒くなりますね」
「この辺も雪が降るのか?」
「そうですねぇ。でも屋根の雪下ろしはしなくてもいい程度かな。道の雪かきは時々してましたね」
そう言うと、ルルクさんは私をまじまじと見て、
「‥よく一人で生きてきたな」
なんて言うから笑ってしまう。
ふふん、すごかろう!ちょっと得意げに胸を張ると、ルルクさんが私の手をそっと握った。
「‥今度は雪かきは俺もする」
「ルルクさん、大きいから腰をやっちゃうかも‥」
「それこそ紋様を描いてくれればいいだろう。蝶でいいぞ」
「蝶で腰痛防止?面白いのか、可愛いのか悩ましいですね」
私の言葉にルルクさんが可笑しそうに笑うと、流れるようにこめかみにキスをするから一気に顔が赤くなる。あ、あの!いきなりされるとですね、照れちゃうんですよ!じとっとルルクさんを睨めば、呆れたように「まだ慣れないのか」と言われるけど、キスって慣れるの?そういうものなの?
「ルルクさんのように百戦錬磨じゃないので無理です!」
「‥‥お前は言葉をもう少し考えて言った方がいい。それじゃあ俺が嬉しいだけだ」
「なぜ!??」
「なぜだろうなぁ」
それは楽しそうに笑うルルクさんに、本気で疑問しかない。
暗殺者の考えを全部理解できるには時間が掛かるな。けれど私の手をしっかり握るルルクさん。楽しそうに笑う横顔に私まで嬉しくなる。一度は本当に命の危機に晒されたから‥、こんななんでもない時間がより一層大切に感じる。
ただ想いを伝え合ってからというもの、ルルクさんは私に何度も大好きだと伝えてくるのだ。前世では画面越しでも心臓がギュッと痛くなってベッドに倒れこんでいたのに、今や対面だよ?しかもイケメンだよ?それで好きな人だよ?その破壊力たるや!!
私は完全に恋愛ゲームを舐めていた。
画面越しでも心臓が痛かったのに、心臓が爆発四散するって何度思ったことか!首じゃなくて心臓にターゲットをロックオンした?って思うよね。‥まぁ、ルルクさんはそんなの知ったこっちゃないから、その攻撃は日増しに強くなっていくばかりだ。
天国のお父様、お母様、なんとか生き延びておりますが、ユキはいつかあまりに尊くて天国へうっかり飛び立ってしまうかもしれません‥。なんて考えていると、ルルクさんが私をじっと見て、
「百面相してるぞ」
「はっ!!ちょっと天国へ‥」
「はぁ?なんでそんなことを考えているんだ‥」
「そんな、元凶が睨みつけないで下さいよ」
「なんで俺のせいで天国へ行きそうなんだ」
「‥‥なんで、でしょうね」
目を思わず横に逸らす。
だって格好いいからドキドキして、昇天しちゃいそうなんて言えるか。
しかし暗殺者は追随の手を緩めない。私の手をスリスリと指の腹で撫でながら、顔を耳元に寄せ、
「‥ちゃんと教えろ」
「ぎゃあ!!それ、だから反則です!!」
「‥俺は正攻法でいってるぞ」
「いや、絶対違いますね!」
だったらなんでその低音ボイスで、囁くように言うのだ!ドキッとしちゃうどころか、心臓が落っこちちゃうでしょ!赤い顔でルルクさんを睨めば、ルルクさんは遠くを見つめ、「先は長いな‥」と、しみじみ呟いた。ええと、何か長いの?
「長いといえば、魔法石の調査ってどうなったんですか?」
「ああ、王子がぼやいてたな。魔法石なんて百年に一度見つかればいいくらいの物をどうやって調査すればいいんだって‥。タリクは一人楽しそうだったが」
「あ、ああ‥」
「そろそろ調査も終える予定だと言ってたな。そうすれば少しは静かに‥」
なんてルルクさんが言いかけたその時、ガラガラと大きな黒い立派な馬車が後ろからやってきて、ピタッと横で止まると、御者の人が恭しくドアを開け、中からキラキラした金髪に紫の瞳の王子様こと、レオルドさんがにっこり笑って、
「おお、二人とも丁度いいところへ!話をしたいので馬車に乗るが良い!」
と、言ったけれど、これは拒否権まったくないな?
思わずルルクさんと顔を見合わせると、「‥早く帰ってくれ」と、しみじみルルクさんは呟いた。
はい!!てな訳で長らくお休みしていた恋愛ゲームの続き、開始です!!
ストックが尽きる前に書ききれるか‥、ファイ!!!




