恋愛ゲームのシナリオからログアウトしました。
目が覚めると、そこは私のベッドの上だった。
お、おお、久々の我が家‥って感覚がするのは何故だろう。
ゆっくり体を起こすと、私のベッドの周りには花とかお菓子とか本とか魔石とか、とにかくプレゼントらしきものがごちゃっとうず高く積まれていた‥。
「え、えっと‥?」
何があったんだ、これ?
混乱していると、ゴツゴツとルルクさんの履いているブーツの靴音が聞こえて、部屋の扉がいきなり開かれた。
ビショビショだったルルクさんから一転、パリッとした白いシャツを着たルルクさんが水差しとグラスを持って部屋に入ってきて、目がパチリと合った。
今日は室内だからか、眼帯をしておらず‥。
コバルトブルーと緑の瞳と目が、驚いたように私を見た。
「ユキ!大丈夫なのか?」
「え?はい、元気です?って、昨日は驚きましたけど‥」
「3日だ」
「え?」
「あれから3日経ってる」
「‥えええええ!???」
いつもだったら翌日には目を覚ましていた私。
だけど、今回は懇々と眠って起きる気配が全くなかったそうだ。
‥タリクさん曰く、「自身に「呪い」を掛けたせいかもしれません‥」とのこと。ああ、そういえばそうでしたね。しかも自分の血を使って日本語で書いちゃったし。
ルルクさんは私のベッドに腰掛けて、私の頬を優しく撫でた。
「‥気分は?」
「悪くないです」
「何か食べられそうか?」
「‥うーん軽いものなら?」
「俺が、好きか?」
「え、好きですよ」
そう答えてから、ハッとする。
ん?待って??今、なんかすごいことを誘導されて答えたような気がするぞ?目を丸くして、ルルクさんを見つめると、ぶっとルルクさんが吹き出した。
「ちょ、ちょっと!!!なんてことを3日ぶりに起きた相手に言わせるんですか?第一、それならもっとこうロマンチックな場所で、最高なコンディションで言いたかったのに‥、って、ああああああ!!!!」
思わず墓穴という墓穴を掘りまくって、頭を抱えた自分をルルクさんが可笑しそうに笑いながら、ギュッと抱きしめた。
「‥生きてるな」
「‥えっと、はい。お陰様で」
「いきなり蝶になった時は、心臓が潰れるかと思った」
「それは、すみません‥?」
「‥これからも、側にいてもいいか?」
「そんなのもちろんです!!!」
勢いよく宣言すると、ルルクさんが涙目で私を見つめている。
「好きだ」
「え」
「ユキが、好きだ。だから、もう蝶にはならないでくれ‥」
「ルルクさん‥」
ルルクさんが私の額にチュッと音を立ててキスをするので、顔が一気に赤くなっていく。ルルクさん泣きそうな、でも嬉しそうな顔をするから、私まで泣きたくなる。
3日前、ルルクさんにキスする直前に確かに聞こえた、
『暗殺者ルルクの手を取りますか?』と、いう声。
ゲームの選択肢で、いや現実で私はルルクさんの手を取った。
ということは私はもう好きって、言ってもいいんだ‥よね?
もう気持ちに蓋をしなくていい。ルルクさんの手を取ってもいい‥。その事実が嬉しくて、抱きしめられたルルクさんに腕をそろりと回す。
「私も、ルルクさんが好きです。流石に蝶にはならないですよ?でも、これからもずっとルルクさんの手に、蝶を描きたいんですけど‥、いいですか?」
ついでに「料理は、徐々に上手くなる予定です」と付け加えると、ルルクさんがぶっと吹き出したかと思うと、今度は私の唇にそっとキスをした。
わ、わぁあああ!!!
またキスしちゃった!!
驚いて固まってしまった私から、ルルクさんが顔を離すと、コバルトブルーの瞳が嬉しそうに私を見つめるから胸が一杯になってしまう。
「ルルク、さん‥」
この瞳を、ずっと見ていたい。
ちょっと照れくさいけれど、ルルクさんに微笑むと、
「うむ!無事愛の言葉が聞けて、一件落着だな!!」
元気のいい声に、ビクッと体が跳ねると、ルルクさんがすかさず舌打ちをしてドアの方を睨んだ。そこにはいかにも王族!という出で立ちをしたレオさんが立っていて、私は目を丸くした。
「レオさん?!なんでここに‥」
「いやぁ、3日前に白い光るお湯がリリベルの別荘から吹き出したであろう?あそこから白い魔石‥ではなく、白い魔法石を吐き出してな」
「魔法石‥?」
「タリク曰く、100年に一度見つけられるか‥という代物らしい。それが王族の管理地で発見されたので、現在調査と事件の処理と、書類の提出で別荘にいるのに缶詰だ」
「‥缶詰??」
「ああ、今は気分転換に来た!!」
‥気分転換に人の見舞いというのもどうかと思うよ?
しかし、あれから事後処理で大変だったんだろうなとは容易に想像がつく。
レオさんは私を満足そうに見つめると、
「皆、君のお陰でようやく「幸せ」への一歩が踏み出せた。鍵を描いたけれど、開いたのも君だったな」
「畏れ多いです‥」
「いや、やはり私の専用の紋様師に‥って、ああもうお前は余裕がないと嫌われるからな?」
ルルクさんがすかさずレオさんを睨んで、手でしっしと追い払っている。
‥ルルクさん、その方王子です。
タリクさん達は、皆事件の処理や、洞窟や湖の調査、魔物の討伐で大忙しらしく、その合間を縫っては様子を見に来てお土産を置いてくれていったそうで‥、その優しさに胸が暖かくなる。
「元気になったら、お礼を言いに行きます」
「うむ。それよりは君が紋様を描いてくれた方がずっといいだろう。では、皆に目が覚めたと教えてくる!絶対羨ましがるぞ!!」
嬉々として部屋を出ていったけれど、仕事はいいのか仕事は。
思わずふふっと笑ってしまうと、ルルクさんが私の体を抱き寄せ、まるでこっちを見ろとばかりに今度は頬にキスをした。
「‥あの、ルルクさん?!ちょっとなんていうか、グイグイきますね?」
「当たり前だ。ライバルが多すぎる」
「ライバルって‥、私の好きな人はルルクさんですけど?」
そういうと、ルルクさんは目を丸くしたかと思うと、小さくため息を吐く。
「そうだった‥。こういう奴だった」
「なんですか?ダメなんですか?」
「いいや、俺の好きなユキだって思った」
コバルトブルーの瞳がどこか面白そうに私を見つめるので、じとっと睨んでから、私もお返しにルルクさんの頬にキスをすると、私とルルクさんの手の甲に描かれた蝶がキラリと光った。
うん、きっともう恋愛ゲームのシナリオはログアウトしたと思うので、私はゲームの暗殺者と幸せになる!そう思いつつ、ルルクさんを顔を見合わせて微笑むと、もう一度唇にキスをしたのだった。




