恋愛ゲームの主人公の睡眠欲は強め。
サラマンダーの解体は1時間くらいで終わって、レトさんは最後にこちらへやってくると、ものすごく申し訳なさそうに私を見つめた。
「ルルクから、聞いたぞ。付きまといまでされてたなんて‥、本当にすまなかった。もし何かあったらと思うと、とても許される事じゃない‥」
「い、いえ、そんな‥」
「紋様は‥まだうちで描いてくれるか?」
「当然ですよ!私はレトさんのお陰でここまで生きてこられたんです。‥今回は色々あったけれど、私も今度は何かあったらすぐ相談します。だから、これからもよろしくお願いします」
そう。
レトさんは私に紋様を教えてくれて、仕事場まで提供してくれたんだ。
何も知らない私を助けてくれたのは、紛れもなくレトさんやギルドの皆だ。それをトニーさん一人のせいでめちゃくちゃにされてたまるかってんだ。
「素材も色々融通して下さってありがとうございます。もっといい紋様を描けるように頑張ります!」
レトさんに笑いかけると、レトさんはちょっと顔をくしゃっとさせたかと思うと、私の頭をわしゃっと撫でて、
「‥おう、楽しみにしてるぜ。今日は洞窟の主のサラマンダーがここに来ちまったから、明日は恐らく雑魚程度の魔物しかいないと思う。だから、明日はいつもよりゆっくりでいいから」
「はい!」
返事をして、私の思考は一瞬止まった。
洞窟の主??
勢いよくルルクさんを見上げると、小さく頷き、
「普通、魔物寄せの香は雑魚程度の魔物を呼び寄せるのに、何故か大物が釣れたらしい。なんにせよ、素材が手に入って良かったな」
「なんでそんなサラッと言うんですか??!!ぬ、主って‥???」
「洞窟のボス」
「言い方変えても同じ立ち位置〜〜〜!!!!!」
「す、すまねぇ!!すまねぇ!!ユキ!!」
「い、いやレトさんは悪くない!!悪いのは全面的にトニーさんなんで‥」
あっぶなーーーー!!!!
もしかして雑魚程度をけしかけようと思ってたのに、まさかの大物が釣れちゃったのか???恋愛ゲームの主人公なのに確実に死ぬ路線で来るじゃん!??私が涙目でルルクさんを見上げると、
「だから、俺がいるんだから大丈夫だ」
「そ、そうですけど‥」
貴方が実は一番危険なんですけどね??
なにせ竜の首を一発で落とす暗殺者。
そりゃあ私の首を落とすなんて、豆腐を切っちゃうよりも簡単だった訳だ!泣ける!!
べそべそを半泣きする私を見て、レトさんが2本持っているうちの剣を一本腰から外すと、ルルクさんに鞘ごと渡す。
「じゃあ、これやるよ。勢いで作っちまったんだけど、重くて思うように動かせなくてな‥。ルルクなら大丈夫だろ」
「え、」
「だが‥」
「鞘から軽々抜いて、切っちまうなんて‥俺にはできないからな!」
ニカッと笑って、ルルクさんの肩をポンポンと叩くと、「じゃあ、一応見回りさせておくが気をつけてな」と言って、レトさんはギルドの皆と一緒に町へ戻っていった。
「‥剣まで貰っちゃいましたね」
「そうだな‥」
「それって、そんなに重いんですか?」
「‥持ってみるか?」
「え、いいんですか?」
両手を差し出すと、ルルクさんが鞘ごと渡してくれたけど‥、
ズン!!!と、あまりの重さに私の体がよろける。
「お、重っ!!ええ??!レトさん、これを持ち歩いて走ってたの??っていうか、ルルクさんこれ、なんか簡単に振り回してましたよね??二人ともどんな筋肉してるんですか??!」
「‥ふ、」
「あ!!そうやって笑って‥、こうなるの絶対わかってでしょう!!もう!ほら返しますから‥」
「重いからもう持てそうにない」
「嘘つき〜〜!!!」
フラフラしつつ、落としては悪いから剣を抱き上げるように腕に抱えると、ルルクさんはようやく私の両手から剣を受け取ってくれた。
「‥さ、じゃあ雇い主さん、そろそろ寝た方がいいぜ」
「くぅ!!いけしゃあしゃあと‥!!」
ジロッと睨むと、ルルクさんは可笑しそうに目を細めて、私を先に家に入るように促してくれた。‥本当に明日から私は何をどう意識して生き抜けばいいんだろう。恋愛フラグを立てないようにするってどうすればいいの?いや、それよりも私にそんな魅力があるとは思えないんだけど‥。
と、もだもだと考えつつ、ベッドに入ったらスコンと寝てしまった。
恋愛ゲームの主人公は睡眠欲には勝てないらしい。
睡眠欲には勝てないよね。
私は12時を跨ぐ前に寝てしまうので、
自分でシンデレラって言ってますw