恋愛ゲームの主人公、暗殺者を取り戻す。
大きなサラマンダーに追いかけられて、私とレオさんは必死に湖の方へと林を駆け抜ける。ズシンズシンと歩く音が、地響きのようでレオさんが『竜くらいあるなぁ!』って感心したようにボディーバッグから顔を出して話すけれど、頼むから危険なんでバッグの中に入っていて〜〜??!
夕陽が段々と落ちて、辺りが薄暗くなり始めた。
まずい。日が暮れたら、ここいらは真っ暗だ。
急いで行かないと、足元が覚束なくなる。はぁはぁと息を切らせて、湖の近くまで走っていくと、辺りがものすごく明るいことに気が付いた。タリクさんに貰った照明くらいの明るさ‥さながらナイター球場のよう???
「そうか!湖発光しているんだった!」
『随分とまた明るくなったな!』
「え?」
『先日より、また明るくなっている‥』
そうなの?
湖を横目に走っていくけれど、驚いているレオさんの言葉に目を丸くする。地下水が流れてきているとは言ってたけど、こんなに明るいなんて‥。ただそのお陰で追いかけてくるサラマンダーからは私は丸見えなわけで‥。
「グォオォオオオオオオオオ!!!!」
「わぁあああああ!!」
『うむ、いい脚力だ!頑張れ!!』
レオさんが明るい声で励ましてくれたけど、もう必死である。
食われるーーー!!っていうか、炎を吐かれたら王子人形まで焼けてしまうからもう必死どころか死に物狂いだ。ズシン、ズシンとサラマンダーが後ろで雄叫びを上げながらこちらに迫ってきて、涙目だ。
誰かーーーー!!!!
誰か助けてくれーーーー!!!!
でも、ルルクさんもタリクさんもいない今助けなんてこない。
一人で逃げるしかない!必死に走っていると、レオさんがバッグの中で何やらモゾモゾと動いている?と、顔をピョコッと出したかと思ったら、
『発火せよ!!!』
そう叫ぶと、私の後ろでボン!!!とものすごい大きな火柱が立って、サラマンダーが一瞬にして炭と化してしまった。そのあまりの光景に足を止め、目を見開いた。
「え、えええ???!!!」
『うむ!なかなかうまくできたな!』
いやいや??!ていうか、予想してたよりもずっと魔術がすごくできる事を初めて知ったんですけど?!目を丸くしてレオさんを見ると、ちょっと胸を張っているけれど‥。ええとこれは褒めるべき?いや、まずは救助を優先するべきか。
「ここまで走って来ちゃったけど、街へ行くのは‥」
『かえって危険だろうな。魔物がまた出るとも限らない』
「となると、リリベル様のいる別荘へ行った方が安全か‥」
『そうなるな。だが安心しろ、距離にすればあと少しだ!』
「‥ううっ、結局怖い事に変わりはない‥」
泣いていいか?
恋愛ゲームの主人公が魔物に追われながら、拐われた暗殺者を助け出すってどんなストーリーだよ‥。涙目になっている私の後ろで、遠くで魔物とおぼしきものの遠吠えが聞こえて、もうそこからは無言で別荘へダッシュした。もう無理!本当に怖いから無理!!!転びそうになりながら走っていくと、ある建物の前からふんわりと甘い香りがする。
「‥魅了の、匂い?」
『匂いが、するのか?』
「はい!あの建物の方角から確かに‥」
『ここまで匂うということは‥、恐らくリリベルがいるだろう。そして側にいる者達は皆「魅了」に取り憑かれている』
「と、いうことは?」
『‥誰も味方はいないと思ってくれ』
ですよねー!!
薄々きっと大変な所へ飛び込むことになるだろうとは思っていたけれど、やっぱりそうだよね?ともかく、ルルクさんを助けて、レオさんを守るしかない!
薄っすらと明かりがついた大きな門が見え、甘い香りが更に濃く感じられた。
「‥ここが、リリベル様の別荘」
周囲を見渡すと、タリクさんのところと引けを取らないくらいに大きな門構え。
綺麗に手入れされた大きな庭の奥に、お城じゃないの?ってくらい大きな別荘が見えた。‥この先、どうなるかわからない。それでもルルクさんを助けたい。
大きな鉄柵で出来た門をゆっくりと押して、静かに足を踏み入れる。
‥ゲームではリリベル様のものだったかもしれないけれど、今の私にとって大事なルルクさんでもあるんだ。恋愛ゲームの主人公、絶対取り戻してみせる!!




