恋愛ゲームの主人公、ダッシュで救出。
突然現れたリリベル様に、ルルクさんを拐われてしまった‥。
急いで玄関を出て、周囲を見回すけれど夕陽が辺りを照らしているだけだ。どうしよう!恋愛ゲームの主人公なのに私を誘拐じゃなくて、ルルクさん?
いやそうじゃない、そこでもない。ルルクさんを自分のものって言ってた。それに、手の甲に日本語で『魅了』とも書いてあった。
ってことは、彼女は私と同じようにゲームの内容を知っている転生者。
それと‥、
「‥シヴォンさんと、レオさんに「呪い」を書いたの、リリベル様、だったの?」
赤い夕焼けが射す部屋に呆然としたまま呟くと、腕にかかっていたボディーバッグがモゾモゾと動く。そ、そうだった!王子が‥!慌ててカバンを開けるとレオさんがピョコッと顔を出す。
『リリベルが来たのだな‥』
「は、はい。でも手の甲に、その文字が書いてあって‥」
『ふむ。なんと?』
「魅了‥です。甘い香りがして、それをルルクさんが嗅いだ為についていってしまって‥」
レオさんはカバンから顔を出したまま、小さく頷いた。
『「魅了」‥という紋様はないんだよな?』
「ありません。そんなものは本来ないんです」
『ふうむ、私も今は匂いを嗅げない状態だから術に掛からなかったのかもな。だがなぜユキさんは大丈夫だったのだ?』
「え、そ、そう言われれば‥。「魅了」だから同性には効かないのかな?」
私は首を傾げるけれど、後から後から疑問が湧いてくる。
一体なんで突然リリベル様はルルクさんを連れていってしまったのか。どこに行ったのか。
いや、もしかしてゲームのストーリーが強引に辻褄合わせしているのか?
‥ということは、私は今度こそ命がやばい。なにせここには人形とはいえ、王子がいる。ここから私はどうなってしまうのか。ゲームのストーリー回収がどんな風に進められるのか‥、なにもわからない。でも、最後に見たルルクさんの苦しそうな顔を思い浮かべると、胸が痛い。
ぐっと下唇を噛むと、レオさんが私を見上げる。
『リリベルは、どこへ行ったのか‥。なにをしようとしているのかを解明しなくては』
「そう、ですね。まずはレトさんに連絡をしないと‥!とはいえ、どこにいるんだろう‥」
タリクさん達はいないし、ルルクさんもいない。
ああ、私って本当にルルクさんにおんぶに抱っこだったな。
こんな時、どうしたらいいかまるでわからないなんて‥。よくこれで「ルルクさんを守る!」なんて思ったよ。と、バッグからレオさんがぴょこんと飛び出したかと思うと、
『‥ふむ、そう遠くない所にいるな』
「場所がわかるんですか!?」
『あの男に、こっそり居場所がわかる印をつけておいた』
「‥いつの間に???」
『まぁ、王子だからな。念には念を入れてだ。どうもリリベルが使っていた別荘にいるな』
そんな近い距離?!
私が目を丸くすると、レオさんは『ちょっとなら魔術も使えるからな!』って言ってたけど、そうでした。王子でしたもんね。魔術のテストも満点でしたっけね。けどその体でも魔術も使えるのか‥すごいな。
そんな風に感心していると、ズシン‥と地面が揺れた。
「え、地面が揺れた‥?」
バキバキと木々が激しく折れる音が聞こえて、私は急いでレオさんをボディーバッグに入れると、木々の間からぬうっと以前見たことのある大きなサラマンダーが顔を出した。
私とレオさんが思わず体が固まって、ギラギラに光る金色の目を見つめ‥
「どわぁああああああ!!!!??」
堪らず叫ぶと、すうっと息を吸ったサラマンダー。
『逃げろ!!!!』
レオさんが叫んだ瞬間、足が動いた。
後ろでゴォッと炎が追いかけてくる!!まずい!レオさんがこれで燃えてしまった日にはとんでもないことになる!!
追いかけてくるサラマンダーから、ともかく水辺に逃げた方がいいだろうと思って、ひたすら林の中を駆けていく。
なんで?!なんで、ここにサラマンダーが出るの??!
そう思ったけれど、タリクさんがダゴルの近辺に魔物が出現したって言ってたね?!こっちにも現れてもおかしくなかったね??涙目で必死に逃げて行くけれど、なんでこういきなり色々起こるんだ〜〜!!!




