恋愛ゲームの主人公、暗殺者の過去を聞く。
レオさんの人形の小さな腕に早速紋様を描く。
体力増強とか、精神安定、そして最後に金色の鍵を描いた。
小さく日本語で『幸運』も付け加えておいた。問題の進展も大事だけど、なんというかさっきの王族として矜持を持って行動しているレオさんに幸せがいっぱいあったらいいな‥という完全に私の願いを込めた。
金色に紋様が光ったかと思うと、すっと光が消えると、レオさんは小さな腕をじっと見つめ、
『紋様師という仕事は本当に素晴らしいな‥』
そうしみじみと呟いた。
「そ、そう言って頂けると嬉しいです」
『描いてもらう機会がなかったが、これからはもう少し機会を持とうと思う。なんとも暖かく、優しい気持ちになるものだな』
レオさんのストレートな褒め言葉に思わず顔を赤くなる。
王子、褒め上手だなぁ〜〜〜。普段は「楽になった!」とか「痛みがなくなって嬉しい!」とか言われているけど、気持ちが暖かくなるなんてあんまり言われたことがないから、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「‥ユキ、体調は大丈夫か?」
ルルクさんの低い声にはっとする。
そういえば紋様を描いたけど元気だな。
「大丈夫です。やっぱり自分に紋様を描いておいたのと、ルルクさんの蝶のお陰かも」
にこーっと笑うと、ルルクさんは一瞬目を丸くしたかと思うと、ふっと目元を和らげる。
「‥それなら良かっ」
『うむ!良かった!良かった!!さぁ、ではユキさん私を膝の上にのせてくれるか?紋様の本がよく見えなくてな!』
「お前はここにいろ」
『あ!何を人をそんな雑に籠に突っ込む!』
「る、ルルクさん!大丈夫、膝の上にのせても別に問題は‥」
「お前は!!大有りだろうが!!中身は成人男性だからな?!」
「はっ!そうだった‥!」
『ううむ、バレてしまったか‥』
レオさんはどこか不服そうに呟くと、ルルクさんに突っ込まれた籠の中にコロッと寝転がる。『もう少しだったのになぁ〜』って呟いたつもりだが、結構な声量です。ルルクさんが今にも殺しそうな視線で睨んだが、笑顔の王子人形は気にする素ぶりもない。流石王族、度胸が違う。私だったら暗殺者にあんな目をされたら、死を覚悟するのに‥。
「ともかく、今日は家にいるしかないですし、私は紋様液を作る素材の手入れをしておきますね」
「それがいいな。なるべくリビングで作業してくれるか?万が一、何かあった時その方が守れるからな」
「な、なるほど‥」
そうか。
ここが狙われる可能性だってあるんだ。
そう思ったら、ドキドキしてしまう。でも、タリクさんに任せてって言った手前、怖がっている場合じゃないよね。
と、ルルクさんの大きな手が私の頭の上に乗っかった。
「へ」
「‥大丈夫。ここにいる」
低い声が私を励ましてくれていると、一瞬遅れて気が付いた。
コバルトブルーの瞳が、小さく頷く私を見ると、嬉しそうに細められるから私の心の臓が大変なことになった。だから!!そんな風に微笑まれたら勘違いするからやめてくれ!!!近く心臓強化の紋様を開発しないといけないかもしれないなぁなんて思ってしまったさ。
そんなこんなであっという間に夕方。
小さな地震は何度かあったけれど、それ以外は何も穏やかな1日だった。
嘘、レオさんが私にくっつこうとすると、ルルクさんがすごい勢いで引っぺがしてたりしてた。‥レオさん、もしかして心細いのかな?
「‥今日は、タリクさん達は流石に来ないのかな」
私の言葉に隣に座って剣の手入れをしていたルルクさんが顔を上げる。
「流石にそうだろうな。って、おいそこの人形。作業部屋に行くから付いてこい」
『わかったがボディーバッグに私を詰め込むな。もう少しこうそっと女性に触れるようにだな‥』
「黙れ」
レオさんをジロッと睨んだかと思うと、ボディーバッグ にレオさんを問答無用で詰め込んで口をベルトで閉じた。あ、ああ、そんな乱暴に‥。
「作業部屋に行くなら私がバッグを持っていますよ」
「‥だが」
「入っているなら、安心でしょう?」
そう言うとルルクさんはむすっとした顔のまま体からボディーバッグを外して私に手渡してくれた。
「‥絶対に開けるなよ」
「作業部屋まで1分もしないのに開けませんよ」
心配性だなぁと思って、クスクスと笑うとルルクさんが私をじっと見て、大きな手で私の頬をするりと撫でた。
ん???
突然どうした??
目を丸くしてルルクさんを見上げると、じっと私をコバルトブルーの瞳が見つめる。
「‥俺は、戦場で生きてきたからな」
「へ」
「‥本当なら、お前を持ち歩ければいいんだが」
ルルクさんの過去の話に目を見開くと、ルルクさんが可笑しそうに笑って「作業部屋へ行ってくる」と言って、ドアに向かう大きな背中をぼんやりと見つめた。
‥いつか過去の話をするって言ってたけど、突然したな?
でもって戦場で生きてきたって‥。
かなりヘビーかつ納得の生き様と、私を持ち歩く発言に心臓が変な音を立てて思わずレオさんが入っているバッグをギュッと握ってしまった。




