恋愛ゲームの主人公、止める間もない。
リリベル様達が病院から失踪したという情報で、あちこちで捜索が始まったらしい。
そりゃ貴族の子女がいなくなったなんて大騒ぎだ。
『捜査には誰が?』
「ウィリアとアレスが向かいました。それともう一つ悪い情報が入りました」
『なんだ?』
「やはり魔物が出現しました。ダゴルの少し下の川沿いです。サラマンダーがかなり大きく成長しているようで、こちらのギルドに救援要請が来ました。シヴォンがそちらへ向かいます。私はここに‥」
『いや、タリクもそちらへ向かってくれ。指揮は私から託された事にしてくれ』
「何を言うんですか!誰が貴方を守ると‥」
『それこそ、そこの男だ』
レオさんがルルクさんを見上げると、ルルクさんが目を丸くする。
『それに最高の紋様師もいるんだ。何も問題はない』
きっぱりと言い切るレオさんにどこかこそばゆい感じもするけれど、素直にそう言ってくれて嬉しかった。隣に立っているルルクさんはちょっと複雑そうだけど。タリクさんはどうしたものかと考えていると、ルルクさんが大きくため息を吐いた。
「今の状況を聞く限り、人形の言う通りに動いた方がいいだろう。黒の魔石は?」
「あ、そ、そうでした。魔石はなんとか‥。ダゴルの警備隊にあったのを融通して貰いました」
急いでタリクさんがローブの胸ポケットから白い布に包んだ薄い板状になっている黒い魔石を取り出した。
「板みたいになってる‥?」
「溶かすことを前提に加工されています。水500に対し、これを一枚です」
「わかりました。ともかく試してみます」
「申し訳ありません‥。魔物を討伐したらすぐに戻りますので」
「はい。タリクさんもお気をつけて」
黒い板状になっている黒い魔石を受け取って頷くと、タリクさんはレオさんを見て、
「‥レオルド。わかっていると思いますがくれぐれも気をつけて下さいね!」
『こんなにしっかりしている私だぞ?心配するな』
「それが心配なんですよ‥」
タリクさんが珍しく弱気だ。
王子は随分とタリクさんを振り回しているのか?
タリクさんは私とルルクさんを見て「本当に申し訳ありませんが王子をよろしくお願いします!!!」とお願いすると、後ろ髪を引かれるように行ってしまった‥。
「なんだか大変なことになってきましたね」
『うむ。まぁ、起こってしまった事は仕方がない。今はまず黒い魔石でユキさんに紋様を頼んでもいいだろうか?』
「そうですね!まずは人形の姿をどうにかしましょう」
私とレオさんで話していると、ルルクさんが私の肩を叩いて、
「水を持ってくる。お前はその前に少しでも体力を維持できるようパンでも食べておけ」
「え、でも‥」
「食べられる時に食べておくのは大事だぞ」
『うむ!その通りだな。私もできれば食べたかったが、口がないからなぁ‥。ああ、くそ。せっかくこんな自由なのに好きなものを好きなように食べられないとは‥』
レオさんが悔しがる姿をルルクさんが呆れたように見てから、ルルクさんが早速水を入れたボウルを持ってきてくれた。パンを飲み込むように食べていると、ルルクさんは白い布に包んであった黒い魔石を取り出す。
「この一枚に対して、水500だったな」
『ああ、だがその前に私の名前を水に溶ける紙に書いて欲しいがあるだろうか?』
「確かあったな。持ってくる」
テキパキと進める二人。素早い!ちょっと待って!
「ルルクさん、わ、私も‥」
「ああ、大丈夫。名前を書くくらい俺もできる。おい、これでいいんだろ?」
『うむ。スペルもバッチリだ!』
作業部屋にあった紙にさっさと文字を書いて二人で確認し合うと、それを私の所へ持ってきた。
「よし、黒の魔石を入れるぞ」
「ちょ、は、早い〜〜!」
止める私の手も虚しくあっという間に紙をボウルの中に溶かし、更に黒の魔石を入れると水の中が黒くなるのかと思いきや、真っ白な水になった。
「真っ白になった‥」
『なかなか面白い現象だな。よし、それではユキさん頼む』
クルッと背を向けたレオさんの背中に書かれた「人形」という日本語。
一体誰がどんな目的でこんな事をしたかわからないけれど、人にこんなことを書いて変身させてしまうのは、やっぱりどうかと思う。私はルルクさんが持ってきてくれた筆を黒い魔石の液に浸し、呪いが解けるようにと願って「人形」と書かれた文字の上に「人間」と日本語で書いてみる。
パッと金色に文字が光ったかと思うと、あっという間に消え‥、数十秒。
「変わらない‥」
『変わらないな』
「じゃあ、タリクの言った通り水に沈めるか」
冷静にルルクさんがいうや否や、レオさんの頭をガシッと掴んで黒の魔石が溶けた水に速攻で頭から入れた。
「わーーーーー!!!!ルルクさん少しずつ!!!」
と、叫ぶとルルクさんが目を丸くした。
暗殺者よ、判断が早過ぎるよ…。
ぬいって洗うのって難しいですよね‥。




