恋愛ゲームの主人公、王子がお泊まり。
王子であるレオさんが私の手首にちょっと歪なお花を、その後ルルクさんが真剣な顔つきで私の手の甲に金色の蝶を描いてくれた。
『‥なんと、上手だな!』
「そりゃどうも」
「ルルクさんもレオさんもありがとうございます。これで紋様気合いを入れて描きますね!」
そんな話をしていると、玄関をノックする音が聞こえた。
「シヴォンだ。お茶を持ってきた」
聞き覚えのあるシヴォンさんの声にホッとすると、ルルクさんが剣を腰につけたまま玄関へ向かう。警戒バリバリしているな。ドアを開けると、シヴォンさんの後ろにタリクさんとアレスさんがいた。
「こんばんは。すみませんわざわざお茶を‥」
「元気そうで良かった。こっちも色々配慮できなくて申し訳ない」
「そんなこと‥。あ、アレスさんとタリクさんもどうぞうちへ」
「では、お邪魔します!あ、早速照明を使ってくれているんですね」
『おい、タリク?そのことだが、こんなに明るい照明私は聞いてないぞ?』
小さな王子のぬいぐるみが怒っているぞ〜〜とばかりに腕をジタバタを動かす。‥なんだけど、それがまた可愛い。ぬいぐるみがこんな風に動くって可愛いな。ついつい頬が緩んでしまうと、ルルクさんがシヴォンさん達に視線を向ける。
「‥それで?何かわかった事はあったのか?」
「そうですね。まずは湖の発光ですが地震によって、地中の地下水が動いたとみて間違いないでしょう。ダゴルの上の温泉地から、ここまで至る場所で水辺が発光している現象が見られたと報告がありました」
タリクさんの報告に目を丸くすると、ぴょんと私の膝の上に座った王子がふんふんと頷き、
『それによって何か被害は?』
「今のところありません。ただ、水辺にはいつもより警備を強化するようにと騎士団やギルド、警備隊には指示を出しておきました」
『うむ。他には?』
「呪いに関しては、やはり種類としては『変貌』で間違いないかと」
『だろうな。行動は制限されていないし。苦しい感覚も痛い感覚もない』
膝の上で自分の体をまじまじと見つめる王子に目を丸くする。
呪いにも種類があるってタリクさんがくれた本で読んだけれど、まさにそれか。それを理解しているレオさんにも驚いたけれど、ってことは呪いは解ける、のか‥?タリクさんを見上げると、小さく頷く。
「「変貌」の呪いは一番解けやすいとされています。呪いを掛けられた人物の名前を溶かした水に、黒の魔石を更に溶かし入れ3日間飲み続ければ呪いは解けるとされています」
「の、飲む??!でも、レオさんは人形ですけど‥」
私の言葉に、皆がしんと静まる。
そう‥。レオさん人形は喋れるけれど、口は常に糸で縫われた笑顔のままだ。
タリクさんはレオさんをじっと見つめ、
「そうなんです‥。僕もそこをどうしようと。ですので、黒の魔石を溶かした液でユキさんに何かしら書いて頂けないかと思って‥。もしそれで変化がなければ、」
「な、なければ?」
「黒の魔石を溶かした水に沈めます」
『殺す気かーーーーーー!!!』
「とんでもありません。その姿であれば死ぬことはないと冷静に判断しての選択です」
シヴォンさんとアレスさんが王子を見て、口々に「致し方ないな」「そっと絞れば問題ないだろ」って真顔でいうけど、本気なの??私は腕をブンブンと振って怒る王子と皆を交互に見ていると、ルルクさんが王子を見て、
「ちょっとずつ沈めてみればいいだろ」
『そんな問題かーーーーー!!!!!!』
それは確かに。
しかし、皆は至って真剣な顔である。
タリクさんは王子の人形をそっと持ち上げ、
「ふむ。関節の感触はないけれどきちんと自立歩行もできますし、話せるというのもやはり普通の「呪い」とは違いますね。本来なら話すことも動くこともできないはずなんです。やはり後ろの文字を見る限り、シヴォンの時と同じでそもそもの「呪い」とは違うのですね」
「タリクさん、冷静に分析してますけど、あのレオさんをそろそろ離しては?」
「そうですね。いや、本当に人形で良かったです。これで虫や動物になっていたら、魔石を飲ませる事さえ困難を極めていたでしょう」
「確かに‥?」
虫‥と、聞いたシヴォンさんが青い顔になった。
虫嫌いだもんね。
「ただ、解呪の為に使う黒の魔石が手元にありません。急ぎダゴルの街まで買いに行くようにお願いしましたが、前回の湖の影響で魔物が近辺に出現して、防犯の為に使う機会が多かった為に現在品薄中とのことで‥。私も以前は手元にあったのですが、地震の調査の為に洞窟へ入って使ってしまって‥」
人形の王子は頷いて、
『事情がそれぞれあるのだ。仕方ない。今日のところはこちらで休ませてもらう』
「え?」
王子がうちで休むの?
驚いて目を丸くすると、ルルクさんがちっと舌打ちをした。
ちょ、こら!舌打ちしないの!
ぬいが話したら面白いなぁ。
いや冷静ではいられないなぁ。




