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恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。  作者: 月嶋のん
恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。
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恋愛ゲームの主人公、呪われし王子は可愛い?


夕飯を食べ終えた頃には、ようやく力が戻ってきた感覚がする。

すぐにでも王子の背中に人間に戻るって描きたいけれど、まずは自分だ。


「もう大丈夫なのか?」

「はい!大分元気になってきました!」


心配そうに私を見つめるルルクさんにガッツポーズをすると、


「‥自分の分を描いたら、俺も蝶を描く」

「じゃあ、ぜひお願いします!」


なにせルルクさんが描いてくれた蝶なんて、見るだけでも元気になっちゃうし。


ぬいぐるみのレオさんは、私とルルクさんを交互に見て、



『そこの男も紋様師なのか?』

「あ、いえ。違うんですけど、ルルクさんに描いてもらうと元気が出るんです」

『なるほど!それなら私もぜひ描いてみたい!』

「え?レオさんが?でも筆、持てます‥?」

『‥持てないな』

「お気持ちだけはしっかり受け取っておきますね」



ふふっと笑うと、レオさんは嬉しそうにぴょこっと跳ね、


『うむ!では戻った暁には、私もぜひ描いてあげよう!』


というので、思わず微笑んでしまう。

人形だと大変微笑ましい。そして恋愛フラグも感じないから大変心臓にいい。



「‥ユキ、ここで描くのか?」

「あ、はい。作業部屋から紋様液を持ってきます」

「いい。俺が持ってくる。お前はできるだけ動くな」



か、過保護か。

しかし有無を言わせないルルクさんにここは甘えることにした。

作業部屋から、いつも私が使う道具と紋様液をルルクさんが並べてくれると、王子は興味津々で道具を見つめる。せっかくなので、タリクさんがくれた照明をつけて部屋を明るくすると、王子はまたも驚いた様子だった。


『タリクのやつ!私には見せてくれなかったのに!』

「え?そうだったんですか?」

『‥あいつは結構ずるい奴だから気をつけたほうがいい』

「そうですかねぇ‥?」


私には大変優しい先生だけど。

ルルクさんがじとっと王子を見て、「お前が言うな」とすかさず突っ込んでいるけれど、まぁまぁ。



明るくなった部屋で、いつも使う筆に白い魔石で作った紋様液を浸す。

魔物も寄せ付けちゃうかもしれないけれど‥。これが一番効果があったしね。

右手で、腕にびっしりと体力増強とか、呪いを跳ね返すとか、日本語で小さく書いて、腕の周りに模様のように色々なものを描いて誤魔化した。



‥とはいえ、ぬいぐるみの王子がじっと私が腕に描いているのを見ているので、誤魔化せているかが謎だけど。



『これだけ腕に描けるとは素晴らしいな!』

「ありがとうございます。これでなんとか呪いを解けるといいんですが‥」

『また倒れたら困るしなぁ。シヴォンがもう少ししたら体力が回復するお茶を持ってくるはずだから、それまで待っておこう』

「え、でも、すぐにでも‥」

『そんなに急がなくても大丈夫だ。それに私もこうしてゆっくりできるのは久々だしな』

「そう、ですか‥」



仕事とか忙しいのかな。

確かにゲームでは結婚した後のストーリーはないから、どんな風に過ごしているかなんて想像できないもんなぁ。


「お仕事は、やっぱり大変ですか?」

『そうだな。仕事はもう覚悟をしていたから。‥ただ、時々自分という人間はどこにいるのか、とは思うがな』

「自分‥?」

『国の為、民の為、世界の為、自分は全部後回しだ。本当に好きなものはなんだったか、楽しいと思うことはなんだったか、思い出せない時がある』


王子の本音‥なんだろうな。

覚悟をしていたとは言っているけれど、それは想像以上の世界だったんだろう。ゲームでも、時々一人で東屋でぼんやりとしている描写があったもんなぁ。



「‥とても頑張っているんですね」

『‥そうだといいんだが』

「悩むって事は、それだけ物事に真摯に向き合っているから、じゃないですか?」

『なるほど‥』



王子が私の言葉を聞いて、小さく頷くと小筆をじっと見て、


『やっぱり私も今、君に紋様を描きたい!』

「え?で、でも‥」

『今のうちにやりたいと思ったことをしておきたいんだ』


それを言われると、今の会話の流れからしてお断りできないなぁ。

ルルクさんをチラッと見上げると、ルルクさんが小さくため息を吐いて、王子をひょいっと持ち上げた。



「俺が筆を押さえておくから、描いてみろよ。ただし手の甲はダメだ。俺が描く」

『む?!そんなずるいぞ?!』

「‥注文はこれ以上受け付けない」



そういうとルルクさんは、金色の紋様液に慣れたように筆を付けて、王子に持たせるとぬいぐるみの丸い手で王子がぎゅっと筆を持つ。なんだか必死な姿が可愛い。ふふっと笑ってしまうと、王子がルルクさんを見上げ、



『私は描く前から、相手を笑顔にできる力があるようだ。紋様師の才能もあるかもな』

「‥羨ましい性格だ」



心底うんざりしたようなルルクさんが王子の手を抑えて、手首のところにちょっと歪な形の花を描いてくれて、ルルクさんがこれから描いてくれるであろう蝶にぴったりだなって思ってまた笑ったので、それを見た王子がまた嬉しそうに飛び跳ねた。うーん、レオさん結構可愛いなぁ。




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