恋愛ゲームの主人公、爆発はもう結構。
王子がまさかの人形になってしまった。
その上、私は「呪い」を解かないといけないし、守らないといけないという事態になってしまって‥、攻略対象からできる限り離れておこうと思ったのに、全くできない状況になってしまった‥。
ルルクさんは仕事道具の中に入っている大きな布でボディーバックのような物を作ると自分に巻きつけ、そこに王子をムギュッと突っ込んだ。
「とりあえず、こいつはこれでいいだろ」
「確かにそこが一番安全ですけど、いいんですか‥?」
『むさ苦しい‥』
「レオルド、今は急を要しますからね?」
タリクさんがはぁっと大きなため息を吐いてから、私を見つめる。
「リリベル様を送ってから人形化したのは、ある意味不幸中の幸いでした。もし目の前でそうなっていたら、大騒ぎでしたからね」
「あ、丁度送ったところだったんですね」
「ええ、リリベル様達が馬車に乗り込む直前に地震があって驚きましたが、彼女達もすぐ馬車に乗って出発したので‥」
そっか。
無事に馬車に乗って出発したのか‥。王子の変わり果てた姿を見られなくて良かった。
とはいえ、すぐにこっちに連れて来られたからとはいえ、心配しなかったのかな。何となく不思議ではあるけど、タリクさんも「その辺の記憶が曖昧なんですよね‥」と困惑した顔をしてる。ウィリアさんはルルクさんを見上げ、
「とりあえず、俺とタリクでギルドの中へ戻って騎士達に王子は体調を崩して、先に別荘へ戻ると話をしてくる。あんたが王子の護衛をしてくれていると言えば、中の奴らも納得してくれるだろう」
「‥ユキは仕事があるんだが?」
「悪い。今は頼む。ユキちゃんもごめんな」
「い、いえ!今は緊急事態ですし‥。じゃあ、ルルクさん一旦家に戻りますか」
「そうするしかないな‥」
ルルクさんは馬房から馬を借り、ウィリアさんはギルドに入って説明に行くと、タリクさんが眉を下げる。
「すみません‥。巻き込む形になってしまって」
「そんな‥」
「呪いについては、出来るだけ早く解除方法を探しますね」
「はい。私も白い魔石の紋様液をまた使ってみます」
「お願いします。‥しかし、あの文字は一体何なんでしょうね」
「え」
タリクさんの言葉に思わずドキッとする。
そうだ。あれは確かに日本語で書かれていた。
しかもシヴォンさんが魔術を使えなくなった時と同じで、意識を皆なくしてしまっていた。一体、何の目的で王子を人形にしたんだろう‥。考え込んでいると、ルルクさんが馬を引いてこちらへやってきた。
「ユキ、家に戻るぞ。おい、悪いがユキは休むことを伝えてくれ」
「わかりました。申し訳ありませんが王子をお願いします」
「は、はい」
ルルクさんは私をさっと馬に乗せると、すぐに後ろに飛び乗った。
「行くぞ」
「はい!じゃあ、タリクさんまた後で‥」
「はい。また後で‥」
心配そうなタリクさんに手を振って、ルルクさんが馬を走らせる。
これからどうなっちゃうんだろう。
「呪い」を今度も解くことができるんだろうか‥。不安で胸がギュッと苦しくなっていると、ルルクさんが私のお腹に回した手に力を込める。
「‥一人で抱えようとするな」
「え」
「二人なら、なんとかなるんだろ?」
首を捻って、後ろを見るとルルクさんがふっと笑ってくれて‥。
それだけで胸の苦しさが楽になる。
ああ、良かった。ルルクさんがいてくれて本当に良かった。と、ルルクさんのボディーバックの間から王子がゴソゴソと顔を出し、
『もちろん、王子である私もいる!』
「‥王子、隠れてて下さいね」
『レオでいいと言っているのに』
「いやいや、王子様ですからね?」
『今はそう言ってるとバレてしまうから、レオだ。さぁレオで』
「ええ〜〜‥、じゃあレオさん?」
『うむ、まだ固いがそれで良いだろう』
笑顔のまま、不服そうに答える王子のぬいぐるみ‥じゃなくて、レオさん。
なんていうか、こんな事態なのに大変鷹揚に構えていて、すごいなぁって思ってしまう。と、ルルクさんが頭上でレオさんを見て、ちっと舌打ちすると、
「もう少し危機感を持て」
『それは私にかい?』
「‥ユキにだ。追加でこいつには警戒心も持っておけ」
『おやおや、随分な言い様だ。リリベルに言いつけてしまおうか?』
途端、ルルクさんの顔が一層険しくなった。
あ、あの、今はどうか仲良くしてくれ‥。
私はレオさんとルルクさんを交互に見ると、ルルクさんは眉間に皺を寄せ、
「‥これなら、爆発の方がマシだったかもしれないな」
と言ったけれど、いやぁ〜爆発は流石にもういいかな?




