恋愛ゲームの主人公、人形と王子。
王子が人形になってしまった。
そして、その背中には日本語で『人形』と書いてあって‥。
私はその文字を見て、ゾッとした。
誰かが、日本語で「呪い」を書いた。
そして今まさに、その人がここにいる。
ってことは、転生者?それも私と同じ「紋様師」‥?頭の中で、ゲームの中でそんなキャラクターなんていなかったよね?しかもこんなストーリーもなかったはず。いや、私の人生がそもそもストーリーが違ったんだった!
「ユキ、どうだ?」
ルルクさんの低い声にハッとして、顔を上げた。
そうだ、今はまず王子を助けることが必須だ。
「ええっと、やっぱり人形になる「呪い」を受けたようです」
「そうか‥」
『そうなのか。それは困ったなぁ』
「「「ん???」」」
皆で声のした方を見ると、ぬいぐるみになった王子が短い手を組んで悩むようなポーズを取っている。
「え、王子‥?」
『ああ、どうも話せるようだし。動けるようだな。助かった』
「‥いや、どう見ても助かってないだろ」
ウィリアさんがすかさず突っ込んでくれた。
うん、私もそう思った。
ていうか、話せるの?動けるの??ルルクさんと私は腕の中の王子のぬいぐるみを見て目を丸くしていると、タリクさんが眉間の皺を揉んで、
「‥これは、すぐに王都へ報告せねば」
『まぁ待て。ここに紋様師がいるんだ。大丈夫だろう』
「何を呑気なことを言ってるんですか!?大事なこの時期に!!」
『タリク、落ち着け。幸い私が人形になったのを知っているのは、お前とウィリア、ユキさんと、そこの男だ』
ルルクさんがジロッと王子を睨んだけれど、王子は全然気にしてない。
というか、笑顔の表情だけ動かないというのも面白い‥。
私がフードの中の王子を見ると、王子はポンと手を打ち、
『ひとまず呪いを解いてもらう為に、ユキさんにお世話になろう。その間にタリクとウィリアはアレスとシヴォンに話して情報収拾してくれ』
「「え」」
『すまないが、ユキさん。なんとか「呪い」を解いてくれ』
私は目を見開いた。
いや、それはどう考えても無理では??!
だってシヴォンさんのは、魔物虫が呪いを食べてくれたお陰でってのも大きいし。でも、今回は王子は人形だ。魔物虫にもし食べられたら‥人間に戻った時どんな状態に‥?だめだ、想像しただけでホラーだ!!青くなった私は断ろうとすると、
『あ、これはもちろん王命だ』
「そんな絶対断れないのを、ここにきて!!!!!」
『ははは、すまんなぁ』
「絶対思ってないですよね‥」
私が涙目になってタリクさんに助けてくれとばかりに視線を送ると、タリクさんは眉を下げ、
「すみません!!私がもっとしっかり育てていれば!」
「いえ、タリクさんのせいじゃないですよ」
『そうだ!知識は大分助かっているぞ』
「レオルド、知識の問題ではありません‥。しかし、確かに今誰がこの「呪い」を放った相手なのかわからない今、私やウィリアの側にいることは危険な状態であるのは間違いないでしょう」
「え、ってことは‥」
「申し訳ありません。ともかく身辺が安全だと確認できるまで、王子をお願いします」
ま、まじかーーー!!!!!!
まさかの攻略対象をお預かり??!
しかも人形化を解かないといけない上に、王子を守るってことだよね?
ルルクさんを見上げると、それはもう眉間に皺を寄せ、王子をジロッと睨んでいる。
「‥おい、ユキ。それを持っても別に俺も人形になる訳じゃないだよな?」
「あ、はい」
「じゃあ寄越せ。俺が持っている」
『ええ〜?私はできれば可愛い子の方が‥』
「潰されたくなければ黙ってろ」
マントの中から、ルルクさんが王子のぬいぐるみの頭をわしっと掴むと、私の仕事道具の入っている籠の中に無造作に突っ込んだ。ちょ、お、王子様だよ??目を丸くすると、籠の中で『暗い〜』という声が聞こえた。‥王子、もしかして結構大らかな感じですかね??私だったら、パニックを起こして泣いちゃうんだけど??
タリクさんとウィリアさんは顔を見合わせ、
「ユキさん、ルルクさん、王子をお願いします。すぐにアレスとシヴォンに連絡して、情報収拾してきます。お昼にまたギルド‥、いや、ユキさんの家に向かいます」
「わ、わかりました」
「すみません。それではよろしくお願いします!」
二人はそういうと、またギルドの中へ戻っていったけれど、ど、どうなっちゃうの‥?恋愛フラグだけを回避しようと思ったのに、とんでもないことになってしまって、私は気が遠くなる。
籠の中では王子が『もう少しスペースが欲しい』という大変な呑気な言葉に、ルルクさんまで遠くを見つめた‥。うん、リリベル様だけでなく、まさか何か起こすのが王子だとは思ってなかったよね‥。




