恋愛ゲームの主人公、不穏な空気。
翌朝、ギルドまで二人で歩いて行くけれど、途中騎士さんやギルドの人達が湖まで移動して行く姿を見かけた。
「あれって‥」
「湖を早速調べに行ったんだろうな」
「ですよね。そんなに発光してるってわかるんですか?」
「かなりな。タリクから照明を渡してもらったろ?あれくらいだ」
「ええ!?かなり明るいじゃないですか?!」
「‥だからレトもかなり警戒してた」
それはそうだろうな‥。
王子が来ているだけでも大変なのに、地震に湖の発光現象。
胃が痛くなりそうだな。
「何事も起こらないといいですね」
「そうだな‥」
ルルクさんとそんな話をしながら街へ着くと、ギルドの前には大きな馬車が2台あった。あれって王子とリリベル様の馬車‥?今なら挨拶だけでもできるかな?と、馬車の方からセリアさんの声が聞こえた。
「王子と離れるの寂しいです!」
「そうかそうか、道中気をつけてな。リリベルも何かあればすぐ知らせてくれ」
「はい、ありがとうございます」
華麗にセリアさんスルーされてるけど‥。
リリベル様が「行きますよ」と言う声に、まだ帰りたくないです‥と渋るセリアさんの声に、ルルクさんが舌打ちする。ちょ、ちょっと、顔が完全に暗殺者ですよ?
しかし確かにこれは挨拶ができる雰囲気じゃないな。
入り口には騎士さん達が護衛の為にあちこちとピシッと並んでいるのでちょっと入りにくい。裏口から入った方が早いかなぁなんて思って、ルルクさんと顔を見合わせたその時、グラグラと大きな地震が起きた。
「また地震‥!」
「ユキ、こっちに」
ルルクさんが私の手を引っ張って、広場に避難するとようやく地震が落ち着いた。ホッと息を吐くと、街の人達も顔を見合わせて「今のは結構大きかったなぁ」「何だろうね、一体‥」と話し合っていた。わかる。私もちょっとドキドキした。
「ギルド、大丈夫ですかね?」
「そうだな‥。見に行くか」
時々、朝早く膝が痛いお婆ちゃんとか、腰が痛いお爺ちゃんもいるから心配だ。
玄関を見ると丁度馬車が走り去っていったのが見えたけれど、騎士さん達がギルドの玄関先で騒いでいるので、急いでルルクさんと裏口からギルドに入ろうとすると、
ドアが勢いよく開いて、そこから王子にマントを被せたタリクさんとウィリアさんが出てきた。
「え?」
「!ユキさん!!」
「ど、どうしたんですか?!」
「今、王子が‥」
王子がどうかしたの?
フードを被っている王子を見た途端、体がシュルシュルと縮んでいくのを見て、目を丸くした。
え?
体が縮んでいる?!!
私とルルクさんが驚いて目を見開いていると、
王子の体はあっという間に小さなぬいぐるみになった。
前世で言えば、キャラクラーのぬいぐるみ。
それも王子の姿をした‥。
私も、ルルクさんも、タリクさんもウィリアさんもフードの中でぬいぐるみになった王子を見て、
「「ええええええええええ!!!????」」
思わず叫んだ。
だって叫ぶよ!!なんで人形になったの?!
っていうか、ギルドの中で何があったの?!私はタリクさんを見上げると、フードの中でぬいぐるみになった王子を見て、呆然としている。ウィリアさんは、急いでフードから王子のぬいぐるみを取り出そうとすると、ルルクさんがハッとした顔をして、
「触るな!もしかしたら呪われている可能性もある!!」
ルルクさんの言葉に、ウィリアさんが慌てて手を上にあげると、タリクさんがハッとした顔になる。
「呪い‥」
「俺は、こんな呪い聞いたことがないがな。というか、中で何が起きた?」
ウィリアさんは険しい顔をして、フードの中の王子のぬいぐるみを見つめた。
そうして、眉を寄せて小さく首を振った。
「リリベル様に挨拶をして、湖に視察に行こうとしてたんだ。地震が起きて、騎士が庇ったのまでは覚えているんだが、その後を皆覚えていないんだ‥」
「え!?」
「一瞬、目眩がして気を失ってしまったようで、それで目を覚ましたら王子の背中に何か文字が書かれているのを見つけて、なんの「呪い」かわからないからすぐに王子を裏口から避難させようとしたら‥」
「人形になったわけか‥」
それって‥、シヴォンさんの時に「呪い」を受けた状況と酷似してない?
嫌な予感にドキドキしていると、ルルクさんがぬいぐるみを見てから、私に視線を向ける。
「‥なんの呪いか、わかるか?」
「わ、私ですか?」
「‥シヴォンの時、魔力の類を読めるって言ってたろ」
言ってましたね。
嘘ですけど、覚えてたんですね。
タリクさんとウィリアさんが同時に私に期待を寄せた目つきで見るので、口は災いの元とはよく言ったものだと思いつつ、ウィリアさんの持っている王子のぬいぐるみをマントごと受け取ると、マントを使ってぬいぐるみを裏返してみると、そこには大きな黒い文字で、
『人形』
と、日本語で書いてあった。




