恋愛ゲームの主人公、暗殺者を甘やかす?
ルルクさんとリリベル様は、それからクッキー談義で話が盛り上がっていた。
お菓子初挑戦で、あれだけ素晴らしいものを作り出せるリリベル様だもんなぁ。そりゃ話も弾むか‥。今度、もう少し料理を練習しよう‥なんて思っていると、ルルクさんが私を呼んだ。
「どうかしましたか?」
「もう帰ろう。明日も仕事はあるだろう」
「そうですけど‥、いいんですか?」
リリベル様といかにも付き合ってま〜〜すって雰囲気を出さなくて。
するとリリベル様が柔らかく微笑み、
「また明日、今度はお弁当を一緒に食べようとお話しをしたんです。ギルドにお伺いしますから、ユキさんも一緒に食べましょうね」
「は、はい‥」
お弁当を一緒に!
‥確かにギルドに来て、一緒のお弁当ならば付き合ってる感もあるか?でも私もいていいんだろうか‥。そんなことを考えていると、少し離れた場所で控えていた騎士さんがやって来て、リリベル様は小さく頷く。
「それではユキさん、ルルク様、また明日」
「ああ」
「はい、また」
手を振ると、リリベル様は嬉しそうに微笑んで騎士さんに馬に乗せてもらって、別荘へと向かっていった。その姿、まさに深窓の令嬢だ。私と全く違うなぁ‥。長い髪は綺麗だし、手も真っ白、私の筆だこのあるちょっと乾燥した手とは違う。
ちくっと当たり前のことなのに胸が痛む。
と、ルルクさんが私に帰ろうと声を掛けた。早速帰ろうと思ったけど、待てよ?一緒に帰ったら、意味がないのでは?
「ルルクさん、リリベル様と付き合っているんだし、一緒に帰らない方がいいかも」
「はぁ?!」
「だって、ちゃんと皆しっかり信じてくれないと、証言とか集められた時困るじゃないですか?私、ちょっと先に歩いて行きますから、その後ルルクさん歩いてもらって‥」
「もう帰ったんだから、関係ないだろ」
「いや、ここは3日徹底しましょう!じゃ、私は先に行きますね!」
うん、その方がいいだろう。
私の家までは人通りは少ないし、意味はないかもしれないけど。
‥ちょっとだけ、さっき二人が一緒にいた光景が胸の中をぐるぐると渦巻いているので、一人にもなりたかったし‥。
チラッと後ろを見ると、ルルクさんが眉間に皺を寄せていたけど‥。
でも、今は仕方ないじゃないか。
私はルルクさんに「好き」も言えないし、巻き込む訳にもいかない。それなら、誰かと上手くいくように離れた方がいいのか‥?でも、それを考えただけで胸が痛くなる。恋愛ゲームの主人公なのになぁ‥。
と、右の小さな小道から馬に乗ったウィリアさんがこちらへ手を振ってやって来た。
「ウィリアさん!?」
「や!ユキちゃん、あいつと別れたんだって?!」
「は、早い!もう情報がそっちへ?」
「うん!急いで帰って来たらレオルドはいるし、地震はあるし、驚いたよ」
「‥確かに‥。」
でもこれならリリベル様もいい感じに、強引に結婚されるのを回避されるかも?そんなことを考えていると、馬からさっとウィリアさんが降りて私を見つめた。
「妹とは、やっと話せたよ」
「え」
怪我をさせちゃった妹さんのことを聞いて、思わず顔をまじまじと見上げてしまった。
「‥申し訳無さすぎて、話せなかったんだ。でも、王都へ戻った時に騎士を続けていいかって話に行ったんだ‥」
「そ、それで?」
「こんな所で油を売ってないで、さっさと仕事へ戻れって怒られた。自分はとっくに好きな人がいて、その人と結婚するから今後を何にも心配しなくていいって‥」
「え‥」
「妹のがずっと強かった」
へらっとウィリアさんは笑うと、
「背中、押してくれてありがとう」
「え?私は何も‥」
「いや、色々励まされてたんだ。だからお礼を言わせてくれ」
「は、はぁ‥」
いつの間に励ましていたのか、私にはよくわからない。
でも妹さんと話せて、そこは本当に良かった。ホッと息を吐くと同時に、ルルクさんがやって来て、自分の背中の後ろに私をさっと隠してしまった。ちょ、ちょっと??
それを見て笑ったウィリアさんはヒラッと馬に飛び乗ると、ルルクさんをチラッと見て、
「あんまり余裕がないと嫌われるぞ」
と言うと、ルルクさんとウィリアさんの間でバチバチと火花のようなものが飛び散った。えーと、ルルクさんが余裕がないようには見えない。それと嫌われるってもしかして私に?
ルルクさんを見上げると、こちらを見下ろすルルクさんの瞳と目が合う。
「‥嫌いじゃないですよ?」
「‥‥そうか」
念の為、そう言ったけれど合ってた?
ルルクさんはウィリアさんに鼻を鳴らすと、ウィリアさんは私を見て、
「あんまり甘やかさない方がいいよ」
「え」
「‥うん。今度、ゆっくりお茶でもしよう。じゃあな」
「あ、はい」
ウィリアさんは馬の手綱をちょっと引っ張ると、街まで馬で駆けていったけれど‥。私がルルクさんを甘やかしてるの?むしろ毎回ご飯を作ってもらって、心配してくれて、申し訳ないくらいなんだけどなぁ。そう思って、ルルクさんを見上げると、非常に複雑な顔をしている。
「‥どちらかといえば私の方がルルクさんに甘えてますよね?」
「‥どうだろうな」
「え?ルルクさん甘やかしてます?逆では?」
私の驚きっぷりにルルクさんがぶっと吹き出すと、私の手をそっと握る。
「じゃあ、甘やかしてくれ。手を繋いで帰ろう」
「え」
ルルクさんが機嫌良さそうに笑って、私の手を引っ張るけれど‥。
うん、もしかしたら甘やかしてるかも???




