恋愛ゲームの主人公、王子にからかわれる。
いきなり殺されないような紋様はあるかと物騒な注文を受けた私。
目をまん丸くして王子を見つめてしまうと、ぶっと小さく吹き出し「冗談だ」って言ったけど、本当に??
「いや、ユキさんの後ろにいる男に殺されそうな眼光で睨まれたんでね」
「へ?」
後ろを振り向くと、ルルクさんは澄ました顔をしている。
‥睨んでは、いないよね?
不思議に思いつつ、真正面を向くと王子の横に立っていたタリクさんが眉を下げて、
「ユキさん、この男のいうことは半分だけ聞いておけばいいですからね?」
って言うけれど、あのタリクさんその人王子だよね?
いいの?そんなフランクで?私は曖昧に頷くと、王子は少し考えたような顔をして、
「‥なんでも見たこともないような紋様を描いてくれると聞いたが」
「えっと、それは星や、四つ葉のクローバー、剣の事でしょうか?」
「‥それもあるな」
他にも何か描いたっけ?
魔石の紋様も珍しかったのかな‥。
タリクさんや、アレスさん、シヴォンさんに、ウィリアさんに描いたのを思い出そうとしていると、王子はニコッと微笑んで、
「‥未来を切り開くような、そんな紋様はあるか?」
「未来?」
なんとも難しい注文が来たぞ???
未来を切り開くって、何かあったのだろうか‥。
何かピッタリな紋様があるだろうかと、私は頭をフル回転させて考える。
「‥あの、何を望んでその紋様を描いて欲しいのかお聞きしても?」
「ああ、そうだな。ふむ、ちょっと膠着している問題があってな。それをいい加減切り開いて、前に進みたい‥と、いった所だな」
王子の言葉に思わず頷いてしまう。
問題が解決しないって確かに苦しいもんね。
まさに今の私がその状態なだけによくわかる。どうしたらこのフラグ回収を終えられるのか、王子ルートはまだ生きているのか‥考えただけで胃が痛くなる。
「‥では、鍵を描きましょうか」
「鍵?」
「問題という扉が開くようにと‥。願いを込めさせて頂きますが、そのような効果はありませんが‥」
「鍵か!!それはいいな」
王子の顔がパッと輝いて、嬉しそうに右手の甲を私に差し出した。
「金の鍵を描いてもらえるか?」
「は、はい」
いいのか?王子様に私如きの紋様を描いて‥。
しかし、タリクさんやアレスさん、シヴォンさんが、王子の後ろからそれはもうワクワクしたような目つきで見ているから‥。うん、描くしかないか。
金の鍵を描きながら、私は願いを込める。
問題が、少しでも解決しますように。
私も同じだけれど、それは時に気持ちが暗くなってしまう時もあるから‥。できれば、問題が解決した際には、とびきりの笑顔になれますように。
鍵を描きつつ、そこに『希望』の文字をそれは小さく描く。
すると金の鍵は金色に光って、すっと静かに光が消えた。
王子はそれを見て、一瞬目を丸くしてから嬉しそうにその鍵に触れた。
「有難う。これはなんとも素敵なものだな」
「あ、有難うございます!」
「‥実は王族の別荘でお茶会をする予定なんだが、ユキさんも良ければ参加しないか?」
「っへ?」
「素晴らしい腕前を他の者に見せれば仕事も増えるだろう?」
ものすっごい提案に私は落っこちてしまうんじゃないかってくらい目を見開いた。
と、とんでもない案件ぶち上げてきたな?
「い、いえ、そんな畏れ多い‥」
「それに私が紋様を特に気に入ったしな。また描いて欲しい」
「え」
柔らかく笑って王子が私の手をそっと握る。
わ、わぁああああああ!!!
やめろ!フラグを立てようとするな!!死ぬぞ!私が!!!
ガタッと私の後ろに座っていたルルクさんが立ち上がり、
「離せ」
低い声が後ろから聞こえて、これは絶対睨んでいるな?ってわかる声に、どう反応したらいいかわからず硬直していると、ギルドの扉がギイっと開いて可愛らしい女の子達の声が聞こえた。
「まぁ!!タリク様、どちらに行ったかと思ったらこちらにいらしたんですの?」
あ、この声ってウィリアさんと付き合いたがっていたセリアさん??
ちょっと顔を動かすと、リリベル様を筆頭に女子達がぞろぞろとギルドに入ってきて、それまでとはまた違う雰囲気になった。
そうだった!帰ってなかったんだっけ。
って、ちょっと待て?
私は今、王子様めに紋様を描いて手を握られていましてね‥?そこに悪役令嬢のリリベル様がそれを見たらどうなっちゃうの??そろっと視線をリリベル様に移すと、
何故かセリアさんを筆頭に睨まれていて‥、
「貴方!!!何を気安く殿下に触れていらっしゃるの??!」
って怒鳴られたけど、違うーー!!!
気安く触れているのは、王子様ですけどーーーー!!??
目をウロウロさせて王子を見ると、ニンマリと私に笑いかけた‥。王子、絶対遊んでるでしょ?そして、この顔‥、似ていないけれどルルクさんと同じ感じだ。完全にからかってるな?




