恋愛ゲームの主人公、全面的お断り。
しっかり昼寝をしたのに、結局夕飯前には起きて夕飯を食べる私の心臓は大分強いのかもしれない。流石にね、攻略対象もこう次々とくればそりゃ慣れるってもんよ。
しかし、命の保証があるかは今回ばかりはわからないけど。
どこか遠くを見つめながら、ルルクさんが狩ってきてくれた鳥のソテーを食べるけれど、心ここにあらずの私をルルクさんが訝しげに見て、
「‥明日の仕事、無理なら休め」
というので、もちろん丁重にお断りした。
いえ、そこはちゃんと日銭を稼ぎたいので頑張ります。
「体調は問題ないんですよ。ただ、ちょっと、こう、色々ありまして?」
「‥何かできることはあるか?」
主に私の首を切らないで頂きたいって事かな?
いいや、でもルルクさんが危険なことに巻き込まれる可能性もあるし、そっちだけは全力で回避して欲しいとか‥かな。しかしそんな事を言った時点で危険人物扱いである。黙っておくのが吉ってもんだよね。
「ありがとうございます。でも、これは私自身の山場だと思っているんで、頑張ります!!」
「‥どんな山場かわからないが無理はするなよ」
「はい!!!!」
ゴウゴウと後ろで燃えるような炎を背負って、気合いを入れてソテーをまた一口に入れる。うん、美味しい。とにかくルルクさんを守ることを目標にして頑張るぞ!!
どこか心配そうに私を見つめているルルクさんに気が付くことなく、翌朝を迎えた私。
リビングの方へ行くと、丁度ルルクさんが見回りから帰ってきた所だった。挨拶をすると私を見るなり、ホッとした顔をしたので不思議に思って‥。
「‥何かありました?」
「‥まぁ、少しな」
「そうなんですか?あ、魔物が出たとか?」
「‥魔物だったら、まだ楽だったな。あの昨日会った金髪覚えているか?」
ルルクさんの言葉に、思わず笑顔が固まる。
あ、はい、王子様ですよね?
「は、はぁ‥」
「この国の第二王子らしい。ただ、今回はお忍びで来たらしいから、すぐ戻るって話だったが」
「あ、ああ〜‥はい」
チラッとルルクさんが私を見て、
「‥お前の話をタリク達がしてたらしい。それで興味を持ってた‥」
「ええええ????!一切お断りしたいんですが!!」
私の反応にルルクさんが目を丸くして、私をまじまじと見つめる。
「お断り‥?」
「だって、王子様ですよ??私は何も作法を知らない一般人なのに、何かしでかしたら怖いですよ。それに私は平穏に生きていきたいんです」
「平穏‥」
「美味しいご飯を食べて、紋様を描いて、昨日みたいにお菓子を持って散歩する。最高でしょ?」
にこーっと笑ってルルクさんを見上げると、ちょっとだけ目を見開くと、すぐに眉を下げて柔らかく笑う。
「‥‥そうか」
「とりあえず朝ご飯食べましょ。今日は私が作りま‥」
「いや、俺が作る」
「そんな被せ気味に言わなくても‥」
「‥美味しいご飯を食べたいんだろ?」
「うっ」
「それなら俺の方がいいだろ?」
ニヤッと笑ってルルクさんの大きな手が私の頭の上に、ポンとのせられ、そのままキッチンへ機嫌良さそうに行ってしまった。‥何か機嫌がいいな?
まぁ、機嫌がいいのはなによりだ。
しかし、一体タリクさん達は王子様に何を吹き込んだのだ‥。
恐ろしくて何も考えたくないけれど、ルルクさんが作ってくれた美味しい朝食に何もせずとも考える機会はどこかへ消し飛んでしまった。だってスフレオムレツだったんだもん。めちゃくちゃ美味しかった。最高だった‥。
美味しい朝食を食べて、気合いを入れ、
ルルクさんに貰った蝶の髪留めをつけて、仕事道具の籠を持って早速出勤だ!
「よーし!!今日も頑張って稼ぐぞ!!」
「はいはい。転ぶなよ」
「大丈夫!今日はパワー満タンですし、無敵です!!」
そんな話をしながら、街までの道のりを歩こうとすると、後ろから数人の騎士さん達に囲まれた大きくて立派な馬車がやってきて、サッと道の横に避けると、何故か私達の前でピタッと止まった。
え‥、何故止まる???
ドキッと嫌な予感がして、目をウロウロさせてしまう。
すると、馬車の小窓が開いたと思ったら、そこからにっこり笑うレオルド王子がいるではないか。
「おや、君は昨日の。丁度良かった!今、街まで行こうとしていたんだ。遠慮はいらない。さぁ、乗りなさい」
「え」
王子からのお断りを一般人ができると思ってる?
真実はいつも一つ。
できません。
できるだけ接触を控えたいと思っている私は心の中で「なんでぇええええ!!!!」と泣き叫びつつ、優雅な仕草で騎士さんに促されて、私とルルクさんはニコニコと笑う王子の馬車に乗り込んだけれど、いや、本当に攻略対象は全面的にお断りなんですよぉおおおお!!!!




