恋愛ゲームの主人公、大トリの攻略対象。
「あれ、お客さんがいた」
と、いう明るい声に私とルルクさんはピタッと動きを止めてから、後ろを振り返ると、長いマントに付いているフードを深く被った男性が立っている。マントの下はシャツにパンツと私達と一見変わらない服装だけど‥、大工さん、かな?
「え‥っと」
「ああ、すまない。橋を見に来てね。あちこち綺麗なものだから散歩してたんだ。今日はなにせ散歩日和だからね」
「そ、うですね」
「ところで美味しそうな物を食べているね。私も何か持ってくればよかったな」
「えーと‥、クッキーでもよければ食べますか?」
ルルクさんがジロッと私を睨むけど、いや、ちょっとくらいは‥ダメ?
私の言葉にその人はクスッと笑うと、
「お気遣いありがとう。でも大丈夫。あとで戻ってお茶でもするよ」
「は、はぁ‥」
「君達はここの住人かな?」
「はい」
「いいねぇ、こんな気持ちのいい所に住んでいるなんて‥」
その人は湖に視線を移すけれど、フードをそんな深く被っていて、果たして風景なんて見えているんだろうか‥。私もつられるようにそちらを見ると、どこかで馬の蹄の音がする。
「あれ‥?馬?」
「ああ、もう来たのか‥」
その人がうんざりしたような声で、馬の蹄の方を振り向くと、ドドド‥と丘の下からものすごい音を立てて馬に乗った誰かがやってくる。数人の騎士さん達と、見覚えのある二人がいる?
よく見たらそれはシヴォンさんと、アレスさんで‥。
「あれ?!シヴォンさんとアレスさん?!」
「「ユキさん!??」」
「おや、知り合いだったのか?あ、待てよ‥。もしかして君が噂の紋様師?」
「え、あ、はい紋様師ですが‥」
なんだ噂って。
目を丸くしていると、シヴォンさんとアレスさんががっしりとフードを被ったその人の腕を両脇から捕まえるように組むと、ジロッと両方から睨んだ。
「いいから!!貴方はすぐに戻りますよ!!」
「なんでこのような場所に来ているのか、しっかり説明してもらいますからね!!」
「‥両腕からこんな熱烈に言われる相手なら、もう少し好みの子が‥」
「「貴方は!!!!!」」
二人のものすごい剣幕にびっくりしていると、ルルクさんがそっと私を自分の後ろに隠した。あ、ちょっと?
「ああ、すまないね。驚かせしまって‥。それでは近々会えると思うけれど、今日の所はまた」
「は、はい‥」
その人は笑って、手を小さく振るとシヴォンさんとアレスさんに回れ右を強制的にされて、ずんずんと下へ向かって行くと、丘の下で待っている騎士さん達は跪いている‥。
あれ?
何か違和感を感じた。
だって、騎士さん達が大工さんに跪くことなんてないよね?
そう思っていると、フードを被っていたその人がフードを取ると、午後の日差しに照らされて金の髪がキラキラと輝いて、私はあっと口を開いた。
金色の髪!
もしかして‥、ドクドクと胸が鳴ると、その人はこちらを少しだけ振り向いた。
紫の瞳に、金の髪をした整った甘い顔立ち。
レオルド・ルシェ・ドリミストリ。
この国の第二王子で、私の攻略対象である彼がにこやかに微笑むと、また前を向いて颯爽と馬に乗る。そうして騎士さん達とシヴォンさん、アレスさんを引き連れて湖の奥、別荘の方へ走っていったけれど‥。
王子様がいてはる‥。
なんで???!!なんでこんなど田舎の別荘地へ来たんだ!!!
真っ青になっていると、ルルクさんがレオルドさんを見て、
「ああ、お偉いさんってのはもしかしてあいつの事か」
「え、ルルクさんなにか知ってるんですか??!」
「白い魔石が発見されて王族管轄の土地になったろ?橋も壊されたこともあって、多分領主が見に来たんだな」
それで王子か〜〜〜〜〜!!!!!!
なるほどね!!!王族管轄の土地になったって言ってたね?!
あとルルクさん、あれ領主じゃなくて王子なんですわ‥。
しかし、まさか王子まで来たとは‥。
これは絶対ストーリー通り、ゲームの攻略対象と会わせようって事か?
そんなとこだけ原作に忠実でなくてもいいのに!!でもって、もしかしてフラグ回収ももちろんするって事??!
「‥うう、胃が痛い‥」
「おい!大丈夫か?!」
「大丈夫かといえば、体は大丈夫なんですけど、メンタルが主に‥」
「すぐに白魔術師のとこ行くぞ!!!」
「い、いえ!!大丈夫!!寝れば大丈夫!大丈夫ですから!!ちょ、持ち上げようとしない!!抱っこもしない!!」
ルルクさんの素早い動きに必死に逃げようとするけれど、あっさりと捕まえられ、なんとか「家で寝る」と押し通して、速攻で部屋へ押し込まれた恋愛ゲームの主人公。
「ど、どうすればいいんだ‥」
見慣れた天井を見て、攻略サイトのないこの世界を呪ってから、結局しっかり昼寝を決め込んでしまった‥。
いよいよ最後の攻略者登場でっす!




