恋愛ゲームの主人公とカップケーキ。
ルルクさんとリリベル様が3日間だけ、フリとはいえお付き合いすることになった。
明日早速仕事終わりにギルドに伺いますね!と、リリベル様はそれはもう花が咲き零れそうな笑顔でルルクさんに言うと、いそいそと出ていった‥。
なんていうか、とんでもないことになったな?
でも他でもないルルクさんが決めた事に私が何を言えよう。
それでも、フリとはいえ付き合う事にちょっと胸がチクチクする。けれど、そもそも私はルルクさんに「好き」なんて伝えられない。フラグ回収は即ち死が待っているのだ。
朝食のお皿を片付けていると、ルルクさんが私の額を指で突いた。
「な、なんですか‥」
「またロクでもないことを考えてると思ってな‥。しょうがねぇ、少し外へ行くか」
「え?」
「おら支度しろ」
さっきまで外へ行かせるのを渋っていたのに、急に態度を変えるルルクさんに目を丸くしつつも、私は出かける支度をすると、ルルクさんが何やら籠を持って私と一緒に外へ出る。
外を出ると嵐が過ぎ去ったお陰か、ぐっと緑の匂いが濃く感じられて、季節の移り変わりを感じる。
「なんだか初夏の匂いがしますね」
「そうか?まぁ、確かに緑は綺麗な色をしてるな」
「ルルクさんの瞳みたいですよね」
ニコッと笑ってルルクさんを見上げると、ルルクさんはちょっと目を丸くしてから小さく息を吐く。「‥そうだった、こういう奴だった」って言うけれど、なに?もしかして気に障っちゃった??慌てて、謝ろうとするとルルクさんにすかさず「違う」って言われたけれど、じゃあ何がまずかったのだろう‥。
青い空の下で歩いていると、あの嵐が嘘のようだ。
‥ついでに雷に打たれたのに、ピンピンしてるルルクさんってすごいよね。
二人で他愛もない会話をしていると、こんな日々がずっと続けばいいのにな‥なんて思ってしまう私に、ルルクさんが林の間を指差した。
「こっちを少し登ると湖が見えるぞ」
というので、もちろん速攻で歩いていく。
「よくそんな場所を見つけましたね!」
「ああ、レトが話していたが昔はここいらに畑があったらしい。湖も近いしな。ほら、そこだ」
「うわ‥!本当だ!湖が見える!」
まさか家を少し出た場所に、こんな湖が見える場所があったとは!
知っている道しか通らなかった私では、一生見つけられなかったかも‥。
少し小高い丘になっているその場所は、左右が木々や雑草に囲まれているけれど、湖の前だけは開けている。
「もう少し刈り取っておけば良かったな」
「え?ルルクさん、草を払っておいたんですか?」
「少しだけな。せっかくなら見える方がいいだろ」
ルルクさんがなんて事ないように言うけれど、わざわざ草を刈っておいてくれたの?びっくりして、目を丸くしているとルルクさんは面白そうに私を見て、
「湖、結構好きだろ」
「え‥」
もしや草刈りを私の為にしてくれたの?
じわじわと嬉しくなって、笑いたいような、泣きたいような、抱きついてしまいたいような‥。あ、嘘。最後のはダメだ。最後のやるとルルクさんに手を握られて、高級食材をたんまり食べさせられてしまう。
「ユキ、こっちから別荘も見えるぞ」
「は、はい!!」
手招きしてくれたルルクさんが指差してくれたその場所は、別荘が確かによく見えた。大きな別荘や小さな別荘も並んで見えて、その中で林の間から一際大きな別荘の屋根が見える。
「なんだかあの別荘だけ、お城みたいですね‥」
「ああ、王族の別荘らしい。まぁ、今はほとんど使われてないらしい」
「そ、そうなんですね‥」
王族と聞いて、どきりとしたが今はほとんど使われていないなら安心だ。
とにかく攻略対象はお断りなので、大変有り難い情報だ。そんな私を横にルルクさんは座りやすそうな倒木に座って、私を手招きする。
「ほら、サラダのお礼だ」
「え?」
「ごちそうさん」
サラダのお礼に作ってくれたの?目を丸くすると、眉を下げて笑ったルルクさんが私の隣に座って、持っていた籠から作ったというカップケーキを取り出して、手渡してくれた。驚きつつもそれを見ると、アイシングされた黄色の蝶がシンプルな線で描いてあって、大変ルルクさんらしいなぁって思ってしまう。っていうか、すごくない?
「すごい!可愛い!いただきます!!」
「‥落ち着いて食えよ」
呆れたように笑うルルクさんにどきっとしてしまう。
暗殺者は今日も心臓に悪いな。
と、ルルクさんが私の口元に指を伸ばすので、目を丸くする。
「へ?」
「付いてるぞ?」
ルルクさんの指が私の口元をそっと拭うと、顔が一気に赤くなってしまう。
まずい!!!今はなんていうか、まずいぞ!!
慌てて俯こうとすると、ルルクさんが「まだこっち付いてるぞ」と顔を上げさせるので私は目をあちこちウロウロとさせてしまう。た、頼む〜〜!!!今はやめてぇええええ!!!そう心の中で叫んだその時、
「あれ、お客さんがいた」
どこからか明るい声が聞こえて、私とルルクさんはピタッと動きを止めた。
 




