恋愛ゲームの主人公、王子とフラグ。
ルルクさんに抱きついたら、「今日はみてろよ」なんて言われたけれど、私は何も見たくない。何か地雷を踏んでしまったのかな‥と思いつつ、ベッドに入って毛布を被ったら、しっかり寝たと思ったのに、あっという間に眠ってしまったらしい。
目を覚ますと、すでにお昼だった。
「え?お昼??」
慌ててベッドから降りると、キッチンはまだ静かだ。
もしかしてルルクさん、まだ収穫終わってないのかな?
私も今から行って手伝い‥なんてしようものなら、絶対怒られるな。それならお昼を久々に作るか!これでも一人暮らしは3年間していたんだ。多少焦がしちゃうけれど、ご愛嬌ってことで。
いそいそと冷蔵庫を開けると、
お皿に布がかけてあって、そこにはメモ用紙がご丁寧に貼ってある。
『昼、遅ければ食べろ』
完璧かよ。
布がかけられたお皿を取ると、綺麗に並んだサンドイッチ。
しかも私が好きな卵のサンドイッチだ‥。
「こんなの好きにならない訳がないよなぁ‥」
ジンと胸が温かくなるし、鼻の奥がツンと痛くなる。
‥フラグの回収が始まっていたことがわかったけれど、ルルクさんとのルートは本来ゲームにはない。
残るは王子様一人。
だけど、私は王子様と一緒になりたいと思ってない。
だって好きなのは、ルルクさんなんだ。でも、ゲームのルートにないルルクさんと私ってどうなるんだろう?そもそも私はルルクさんと離れた方がいいのでは?けれど、きっとフラグ回収の前には無理かもしれない。
そうして、散々悩んだ私の中で決めたことがある。
私がルルクさんを守る。
それに尽きる。
だって私のせいでルルクさんに多大な迷惑をかけてることは確定だし。
これ以上怪我をさせたり、何かに巻き込むのだけは回避だ。回避。絶対に守ってみせる!!
ムンと身体中に力を込める。
そうと決まればお昼だ、お昼。腹が減っては戦はできぬ!
テーブルに座って、手を合わせてからサンドイッチを食べるけれど、優しい味わいにルルクさんみたいだなぁって思ってしまう。
「美味しい‥、好き」
ああああ〜〜、うっかり好きって言わないようにしないとだなぁ。
感情の蓋を今以上にしっかりとしないと!と、思うのに今は留守だし、よくない?とばかりにガバガバである。くそ、ルルクさん好き。
もぐもぐとサンドイッチを食べ終えて、お皿を片付ける。
ルルクさんのお昼は大丈夫なのかな。
何か作っておいた方がいいかな?それとも畑のおじさんが何かくれたりするかな?ちょっと考えて、多分失敗しないものをと思って、サラダだけ作っておいた。
切って千切って合えるだけ。
なんて素敵な料理なんだ。サラダを盛ったお皿を冷蔵庫に入れて、同じようにメモ用紙を用意する。
「うん、完璧だ」
惚れ惚れと自分の偉業を褒めて、冷蔵庫の扉を閉めると、
トントンとドアを控えめにノックする音が聞こえた。
‥お昼を過ぎたこの時間に誰だろ?
ルルクさんに警戒心を持て!!!と散々言われたので、そっとドアの側にある窓から外を覗いてみると、ぱちっとタリクさんを目が合った。
「タリクさん?どうかしたんですか?」
「ああ、すみません。ウィリアから怪我をしたと聞いたので、少しですが薬とお見舞いの品を‥」
「ええ、わざわざすみません。良かったらどうぞ〜」
「あ、いえ。今お一人ですよね?玄関先で‥」
タリクさん紳士だなぁ。
いや、これ絶対ルルクさんなら「当たり前だ!」って言うか。
ドアを開くと、タリクさんがにっこり笑って大きな紙袋を手渡してくれた。
「中にアレスのお菓子と、面白そうな本も入れてあります。あと、これを‥」
タリクさんがポケットから細長い白い筆入れのようなものを取り出した。
「これは?」
「以前、白い魔石の話をした時に照明と仰ってましたよね。光の玉を作った時、もっと長く部屋を照らすものができないか、改良したんです。上の所に小さなつまみがあるので、これを右に回すと明かりが点いて、左に回すと消えるんです」
「え!すごい!!」
私が照明じゃないの?って言ったあの一言を聞いて、覚えていたのにも驚きだ。
「これが実用化できたら、この国の照明がもっと簡単にお金を掛けずに手に入ると思って‥」
「すごい!すごいですよ!!いいんですか?こんな素敵な物を‥」
「ヒントをくださったのがユキさんですからね。是非受け取って下さい」
有り難く頂戴すると、タリクさんが後ろにいた馬車をちらっと見る。
「実は嵐があった為にリリベル様達がまだこちらにいらっしゃるんです」
「あれ?橋は急ピッチで直したんじゃあ‥」
「そのはずなんですけれどね‥。そんな訳でちょっとあちらへ顔を出しに行く予定なんです」
「あらら‥」
「一応、帰るまでは用心して下さいね」
タリクさんはそう言うと、馬車へ乗って素早く行ってしまったけれど、そっか‥、リリベル様達はまだいるのか。ルルクさんのこともあるし、できるだけ会わないように気をつけよう。そう思ってしっかりとドアを閉めた。




