恋愛ゲームの主人公、同じように。
結局、翌日も大雨で‥。
それでもその中をルルクさんは、騎士さんが連れてきてくれた馬に乗って見回りをしに行った。こんな雨なのに偉いよねぇ。
大きなフードがついたコートを着ていったとはいえ、きっと濡れてしまうだろう。
まだ昼間なのに薄暗い外を陰鬱な気分で眺めていると、ルルクさんが馬に乗って騎士さん達と帰ってきた。馬を返すと、家の中へ足早に帰ってきたルルクさんにドアを開ける。
「お帰りなさい!はい、タオル!」
「あ、ああ、ありがとう‥」
玄関の前でちょっと驚いたような顔をしたかと思うと、目を細めてびしょびしょのコートを脱ぐと私のタオルを受け取る。
「コートはこっちに干しておいて下さい」
「ああ」
「雨、今日もすごいですね」
「明日は風も出てくるらしい」
「ええ〜?これに風?」
「湖も水が溢れそうだった‥。明日はむしろ風だけが吹き荒れて欲しいくらいだ」
なるほど‥。
それは確かに危険だな。
コートのお陰で大して濡れなかったとはいうけれど、温かいお茶を出すとルルクさんはそれを飲んでホッとした顔をしていた。
「そういえば、ウィリアさんには会いましたか?」
「いや、今日は流石に休んでいるらしい」
「そうですか‥」
「怪我は紋様のお陰でいつもより治りはいいらしい。まぁ、メンタルはもう少し時間が掛かるだろうな」
私の言いたいことを汲んでくれて、先に話してくれたルルクさんに顔を上げる。
「‥ああいうことって、たまにあるんですか?」
「そりゃな。ただ人を操る呪術はできる奴が限られているし、そもそも登録されているから的は絞れているんじゃないかと思うがな」
「登録??」
「呪術は基本的に危険だから、登録した人間じゃないと使えないことになっている。‥まぁ、独学で習ってる奴もいるだろうけどな」
そうなのか‥。
確かに人をやたらめったら操って、誰かに危害を加えては危険だもんね。
神妙な顔になると、ルルクさんが小さく笑う。
「‥まぁ、お前は大丈夫そうだな」
「どういう意味ですか。繊細な私なんて簡単に操られちゃうかもしれないのに」
「言うことなんて聞いてやるかって言いそうだが?」
「‥気持ち的にはそんな感じですけど」
私がそう言うと、ルルクさんが面白そうに笑う。
そういうルルクさんだって、すごい抵抗しそうだけどね。私と同じで負けず嫌いだし。
「‥そういえば橋も見てきたんですか?」
「遠目にな。確かに柱が壊された形跡は目に入ったが、川の流れがすごくて流石に無理だった。ダゴルに渡る橋だから、早めに修繕しないとだな」
「え‥。ってことは、リリベル様達って‥」
私が思わず呟くと、ルルクさんは小さく息を吐いて、
「まだタリクの近くの別荘にいるらしいな」
「ああ‥」
げんなりした顔をすると、ルルクさんはぶっと吹き出した。
「そんなに苦手か」
「苦手‥ですね」
だってセリアさんとその友達はチクチク嫌味を言ってくるし、リリベル様は‥なんていうかルルクさんを見てうっとりしてるし。もしうっかりルルクさんと恋仲にでもなったら、悲しすぎるし、私は殺されるルートが開いてしまうかもしれないし。ああああ、何一ついい事がない!!
どうか!どうかこれ以上何も起きませんように!!祈るようにカップを見つめると、ルルクさんの大きな手が私の頭をそっと撫でた。
「‥ルルク、さん?」
「あんまり思い詰めるなよ」
優しい声色に、ギュッと胸が痛くなる。
暗殺者って優しくないか?本当だったらゲームの中で私の首をスパスパと切ってたのに、今は常に心配してくれる‥。あーあ、ゲームでもこんなルルクさんだったら、私はきっと一番先に好きになってたろうな。
ちょっと顔を上げて、
「私も撫でます」
と宣言すると、ルルクさんが笑って、
「俺は疲れてないぞ」
「でも、撫でたい気分なので‥」
「‥動物でもないぞ」
「私も癒したいんです。‥ルルクさんみたいにできるかわからないけど?」
「‥‥お前なぁ‥」
ルルクさんは私の言葉に呆れるやら、なにやら複雑な顔をすると、私の頭からそっと手を離し、反対に自分の頭をちょっと前に傾け、
「お手並み拝見といこう」
「そうやってプレッシャーを掛けないで下さいよ」
じとっと睨みつつ、ルルクさんの焦げ茶の髪にそっと触れて優しく撫でてみる。
やっぱり紋様を描く時と同じように、笑顔でいて欲しいとか、元気でいて欲しいとか、あと最後にもう少しだけそばにいて欲しいと願いながら、焦げ茶の髪をゆっくり撫でた。




