恋愛ゲームの主人公、イタズラ書きしたい。
まさかの裸足とルルクさんのシャツを無許可で着用というコンボをかまして、ガッツリ叱られた私。珍しく長風呂のルルクさんに、私はなんといってお詫びをすればいいのかわからなくて、ひとまずお茶を淹れておいた。
ガチャッと洗面所のドアを開く音がやけに大きく感じて、そっとそちらを見ると、髪をガシガシと拭きながら出てきたルルクさんと目が合うなり、思わず目を逸らしてしまった。あ、ああああ〜〜〜〜!!!そうじゃないだろ!まず謝罪!!謝罪だってば!!
「あ、あの、ルルクさん、さっきはその本当にすみませんでした‥」
「‥‥ああ」
「あの、お茶を淹れたので良かったらどうぞ‥」
「‥ああ」
ルルクさんは髪を拭きつつ、私の向かいの席に座るとほかほかと湯気の立つお茶をごくっと一口飲んだ。
「‥茶は美味いのにな」
「なんか聞き捨てならないセリフが聞こえた気がするんですけど?」
「事実を言ったまでだ」
「本当に失礼ですね〜〜〜。料理だけがちょっとこうピンポイントで苦手なだけですよ」
果たして料理だけがピンポイントで苦手かは、ちょっと怪しいけど‥。
わかりやすく頬を膨らませてから、私もお茶を飲むと確かに美味しい。今日は一段と上手に淹れられたかもしれない。
「夕飯までは時間もあるし、お菓子でも食べますか?」
「いや、大丈夫だ。剣の手入れもしておきたいしな」
窓の外を見つめながらルルクさんがなんとなしにそう言ったけれど‥、それはやはり私の首を切るルートが近いゆえ?思わずギクリとすると、
「橋が人為的に壊されたのが、気になるしな‥」
「そっちか!!」
「‥他に何かあったのか?」
「いえ、何もございません」
そうだった。
橋ね、橋。確か橋を渡らないとダゴルの街に行けない‥って聞いたことがあるけど、まさかその橋かな?田舎だからか木でできた橋なのは覚えているけれど、川が氾濫したからとはいえ、あれを人為的に壊すって結構やばいような‥。
「‥確かにそっちも気になりますね」
「先に言っておくが、巻き込まれるなよ」
「なんに巻き込まれるんですか‥。私だってお断りですよ」
そんな余計なフラグを立てないでくれ。
ルルクさんがいうたびに確実にフラグが立っている気配もするし。
言った本人のルルクさんも確かにとばかりに頷くと、お茶を飲み干すと「ご馳走さん」と言ってカップをキッチンに下げてから作業部屋へ剣の手入れをしに行ってしまった‥。
まぁ、確かになんだか落ち着かないこの状況だ。
準備は大事だろう。
私も紋様をいつでもできるようにと、部屋で仕事道具を手入れしておく。
「そうだ、白い魔石の紋様液どうしようかな‥」
魔物を寄せ付けるし、処分しておくべきか、それとも取っておくべきか。
状況が状況なだけに考えちゃうよね。それでも「呪い」には効くかもしれないってタリクさんは言ってたし、少しだけでも描いておくか。左腕の上の内側に、小さく黄色の蝶を描いて『呪い無効』と、日本語で小さく描いておく。
本来は紋様にはそんな効力ないけど、日本語で書いたら多少違うかもしれない。金色に光って、静かに消えた文字をじっと見つめる。
日本語といえば、シヴォンさんの手首の文字だって未だに気になる。
誰があれを書いたのか、そしてその力の強さを考えると、私が時々皆に小さく書く日本語にも確実に力があるってことになる。
「‥誰かの力を私もああやってどうにかできちゃうのかな‥」
それはそれで怖い。
無敵になれるかもしれない一方で、もう一人その力を持っている人は、そっちは躊躇いもなくその力を使っているのかと思うと、それも怖い。
でも、シヴォンさんに魔術使用と書いた時、また魔術が使えるようになった。
それならウィリアさんには?そう思ったけれど、まだ心の整理ができてない人にそれを書いても、剣を持てたとしても、それは無理矢理彼の心を揺さぶるのと変わらない気もする。
あと単純に私はまだ自分の力がそこまでできるかわかってないし。
「恋愛ゲームの主人公なのに、そもそも何もできないとか‥」
はぁっとため息を吐いて、未だにずっと降り続ける雨を見て、疑問ばかり次から次へと雨のように落ちてくるのに、問題は何も解決できず、ただただ濡れるだけの自分を見ているようで憂鬱になる。
「あ〜〜!!攻略サイトを見たいよう!!」
どうにもできないこのゲーム世界。
本当に製作者は一歩前に進み出て欲しい。
そうしたら紋様液で顔をぐちゃぐちゃにいたずら描きするのに!!!




