恋愛ゲームのキャラってどんな設定?
美味しくお昼を頂いて、ついでにおかずまで貰ってしまって、私はホクホクである。
籠のバッグにおかずを大事に入れて、仕事はもう今日はないとの事だったので、家まで帰ろうとギルドを出た時だった。
「あ、良かった!ユキちゃんいた〜〜!」
「え」
トニーさんが手を振りつつこちらへやってきた瞬間、ルルクさんがサッと私の前に立った。おお、流石ボディーガード!素早いな?!!と、思いつつも驚いた顔をしてルルクさんの背中を見上げる。
トニーさんは、ちょっと驚いた顔をしたかと思うと、すぐに笑って、
「いや、すんませんね。ちょっとユキちゃんに渡しておきたい物があって!」
「な、なんでしょう‥」
「これ!魔石なんだけど、小さいし、要らないっていうから貰ってきたんだ」
「え‥」
トニーさんはニコニコ笑って、小さな袋を取り出すと私に渡してくれた。
赤い魔石の粒が一杯入っているけど‥、え、い、いいの?
普通、どんな物でもギルドに報告しなきゃいけないはずだけど‥、でも、要らないからいいのか?私はどうしたものかと小袋を見つめていると、トニーさんは私を見て、
「昨日、ちょっと悪かったなって思って。それじゃお詫びにもならないけど‥」
「え、いや、それは‥」
「まぁ、要らなかったら処分してもいいから!じゃあね〜!」
トニーさんはそう言って、ギルドの中へ入っていった‥。
え、ええ〜〜〜?もうこれどーすればいいの??
私はルルクさんを見上げると、じとっと私を見ている。う、うう、視線が痛い。
「これ、返してきます‥」
「今はやめておけ」
「え、で、でも‥」
「ひとまず帰るぞ」
「大丈夫‥ですかね」
「さあな」
「そういう時は、嘘でも大丈夫って言って下さいよ〜」
「じゃあ、大丈夫だ」
う、うう‥。
暗殺者め、人の心をグサグサと刺してくるとは‥。
仕方なく小袋に入った赤い魔石を籠に入れて、そのまま二人で家まで戻る。
はー、せっかく美味しいご飯を食べてちょっと気分も良くなったのに、また逆戻りだ‥。
「ただいま〜‥」
誰もいない家に、思わず声を掛けるとルルクさんが不思議そうな顔をして、私を見る。
「なんで誰もいないのに‥」
「ああ、なんか習慣で‥。おかしいですよね、誰もいないんですけど、つい言っちゃうんですよね」
昔は執事長が「お帰りなさいませ」って言ってくれてたんだけど、今では一人。
人生って切ない。
籠をテーブルに置いて、おかずは冷蔵庫に。
赤い魔石の入った小袋は…、ひとまず道具と一緒に作業部屋に置いてきた。
「ルルクさん、今日は私が夕飯作りますよ。おかずはあるから、お肉を焼くだけなら‥」
「やめておけ」
「まさかの一刀両断」
「‥‥明日も仕事があるんだろう」
「はぁ‥」
「手を怪我したら、まずいだろう」
手を怪我?
目を丸くしてルルクさんを見上げると、ちょっと呆れたように私を見て、
「怪我をしたら、紋様を掛けない。お金を稼げない。俺を雇えない」
「な、なるほど‥?」
「‥肉を焼くだけなら、俺もできる。お前は仕事道具の手入れでもしてろ」
「は、はぁ‥」
しっしっと手で追い払われ、私はすごすごと作業部屋に戻ったけど‥、
あれ?もしかして、信用はされてないけど、どうやら配慮はしてくれてる?まだ出会って2日しか経ってないけど、素直に言えない人なのかも?
どこか心の中がこそばゆくなって、さっきまであまり視界に入れたくない気持ちだった小袋を開けた。うん、火の魔石に罪はない。君達はしっかり紋様に生かしてあげるからね!魔石を溶かす液体の瓶の中に、少しずつ入れると透明の液体があっという間に鮮やかな赤い液体に変わっていくのをジッと見つめる。
ルルクさんの腕に、今度はもうちょっと格好いい紋様を描いてあげようかな。
男の人ならやっぱり竜?それとも剣?
そう思うと、ちょっとワクワクしてきた。仕事は大変だけど、紋様を描くのはやっぱり楽しいし。あれだけ強そうなのに、特に描いてなかったというから‥、どんなモチーフが好みかな。
色を作りながら、メモ用紙にモチーフの絵を色々と描いていく。
とはいえな〜、前世はゲームを楽しむただの一般人女性‥紋様とは無縁の世界。結局は可愛いお花とかが一番得意なんだよね。ブツブツとああでもない、こうでもないと言いながらモチーフを描いていると、ドアがノックされる。
「‥おい、もう少ししたら夕飯だぞ」
「え?!もうそんな時間!??」
いかん!また私は時間をワープしてたな‥。
夢中になっちゃうと、時間があっという間に過ぎるんだよね。
慌ててメモ用紙を持って、ドアを開けるとルルクさんが呆れたように私を見下ろした。
「‥う、す、すみません‥」
「別に。ほら、飯を食うぞ」
「あ、そ、その前に!あのルルクさんが紋様を入れるとしたら、どんなのがいいですか?竜とか、剣とか、あ、言葉とか‥」
「蝶」
「え」
「‥蝶がいい」
意外な答えに私は目を丸くして、ルルクさんをまじまじと見つめた。
「‥可愛い、ですしね」
「‥そうだな」
‥暗殺者って、結構可愛い物が好きなんだな。
そんなことを思いながら、今朝採れたての首を切られ、美味しく焼かれた鶏肉を私は複雑な心境で食べた。‥暗殺者、不思議だ‥。




