恋愛ゲームの主人公、雨と騎士。
雨がずっと降る中、静かに泣くウィリアさんの背中を撫でた。
何にもできない自分に歯がゆく思いつつ、それでも少しでも心が落ち着けばいいな‥と思っていると、バシャバシャと水音を立てながらギルドの人と騎士団人達が、フードのついたコートを着て馬に乗ってこちらへ駆けてきた。
畑のおじさんがすぐに倉庫から手を振って、馬と一緒に倉庫の中へ案内すると、びしょびしょの騎士さんが急いで馬から下りて、ウィリアさんへ駆け寄った。
「大丈夫か、ウィリア!!」
「‥俺は、大丈夫です。すみません‥今回も何もできなくて‥」
「馬鹿野郎!怪我は大丈夫なのかって聞いてるんだ!」
少し年上であろう騎士さんがそう怒鳴ると、縛られてのびている騎士さんと警備隊の人を確認してから、ルルクさんを見て、
「すまない。本当に助かった。暴れていたと聞いたがその他に何か気なる事は‥」
「目の色が変わっていた。恐らく操られていた」
「呪いを?!」
「そっちの騎士と先日仕事をしていたので、目の色が違うのに気が付けた」
そうだったの?
あの一瞬ですごくない??
私はルルクさんを目を丸くして見上げると、眉を下げて笑った。
「まぁ、一番は人を襲っているなんて、それだけで可笑しいだろ」
「そうだな‥。しかし、まさかこんな時に「呪い」とは‥」
「何かあったのか?」
「上流の川がこの雨で決壊したらしく、ダルゴに通じる橋が落ちた」
え?橋って‥、ウィリアさんが直しに行ったはずの橋のこと?
ウィリアさんもそれには驚いたらしく、パッと顔を上げた。騎士さんは眉間に皺を寄せ、
「‥誰かが、人為的に壊したかもしれないという報告もあったんだが、川が氾濫していて近付くのは危険と判断した。嵐が去ってから再度調べる予定だ」
急に何かに追い詰められていくような感覚になって、私はぞっとする。
‥人為的に壊したって‥、誰がそんなことを。
ウィリアさんもそう感じたのか、顔が青くなっている。だ、大丈夫か??私はまたも背中をさすろうとすると、ルルクさんが私の方へやってくる。
「ユキ、そろそろ帰るぞ」
「え、でも‥」
「この天気だ。どうしても濡れるが帰った方が良さそうだ」
え、この大雨の中を??
思わず外を見るけれど、うん、これはずぶ濡れ必須だな‥。
騎士さんが「馬を貸そうか」と言ってくれたけど、流石にまた返すのも大変なので断ってずぶ濡れになって帰る決意をした。まぁ、帰ったら着替えればいいだけだし。
「それよりもウィリアさんが怪我をしているので、彼を‥」
「ああ、ありがとう。ウィリア、立てるか?」
騎士さんがすぐにウィリアさんに手を差し出すと、ウィリアさんは少しよろけながら手を掴んで立ち上がったかと思うと、私を見て、眉を下げた。
「‥色々、ありがとう」
「謝ることなんて、何一つないですよ」
にこっと微笑むと、ウィリアさんはようやく少しだけ微笑んでくれた。
「今度、落ち着いたらまたお礼に行くよ」
「いつでもどうぞ。今度はのんびりお昼でも食べましょう」
ニッと笑うと、ウィリアさんは目を丸くしたかと思うと、可笑しそうに口を引き上げる。
「そうしよう。俺もその方がいい」
そういうとウィリアさんは騎士さん達と一緒に雨の中、コートを頭から被って帰っていった。やっと一息つけたけれど、この雨これからもっと激しくなるのかな。私とルルクさんは雨降る空を見上げて、お互いに顔を見合わせた。
「‥たまには雨の中の散歩も悪くない、ですかね?」
「まぁ、たまにはいいかもな」
ルルクさんがふっと笑うと、雨降る中、おじさんが家から大きな黒い傘を持ってくるのが目に入った。
「いや〜〜、すごい雨だなぁ。こりゃ収穫は雨が上がってからにしよう。今日は気をつけて帰ってくれ。あ、それとうちのボロい傘だけどな、無いよりはいいだろ。持っていけ」
そう言って差し出してくれた大きな傘は、確かにボロかった。
3つも穴があって、開いた途端に私とルルクさんで思わず目を丸くしたけれど、穴から落ちてくる雨の水を二人で笑いつつ、結局ずぶ濡れで帰るのだった‥。




