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恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。  作者: 月嶋のん
恋愛ゲームのシナリオはログアウトしました。
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恋愛ゲームの主人公、四つ葉を描く。


黒い雲が空を覆い、勢いよく雨が降り始めた。

何が起きたのか全く理解できないけれど、真っ青な顔のウィリアさんをまずは手当てしなければ‥!


畑のおじさんに声を掛けに行くと、すぐに野菜を仕舞う大きな倉庫を指差して、そこで手当てをしようと案内してくれた。



大きな木でできた倉庫は、あちこち果物や野菜が積まれていて、土の湿った匂いと甘い香りがする。ひとまずウィリアさんには、木の古い椅子が置いてあったのでそこに座ってもらう。一方でルルクさんは雨降る中、畑のおじさんから貸して貰ったロープで暴れていた騎士さんや警備隊の人を急いで縛ると、倉庫の中へルルクさんが担いで端っこに荷物のように置いた。



い、いいのかな?

とはいえ、ウィリアさんは血だらけだ。まず手当てが先だと、おじさんがすぐにタオルや薬、お湯を用意してくれて、急いで手当てする。



「う、痛た‥」

「薬を塗ったら、すぐ紋様を描きますね」

「‥ありがとう」



未だ青い顔のウィリアさん。

あちこち血の滲んだ服を見ると、大丈夫だろうかと心配になってしまう。

倉庫までおじさんが温かいお茶を持ってきてくれて、ウィリアさんや私達に手渡すと、ギルドの奴らを呼んだから安心して休めと声を掛けてくれて、最早感謝しかない。


ウィリアさんにお茶を飲んでもらってから、持っていた仕事道具を出して、傷の回復を早める紋様を描くとじっとそれを見て泣きそうな顔になる。



「‥俺、もう騎士を辞めた方がいいのかな」

「でも夢、だったんですよね?」

「‥そうだけど、誰かを傷つけてまでやる意味があるのか、わからない」



昼間はまだ明るい顔だったのに、すっかり弱って泣きそうな顔になっているウィリアさんに私は筆を置くと、背中をそっと撫でた。ゲームの中では3年間騎士として訓練を重ねていたウィリアさんが、あんなに真っ青な顔になって剣も握れず、辞めた方がいいなんて‥、俄かには信じられない。


「‥何か、あったんですか?」


外はいつの間にか本降りになっていて、雨が屋根をバシバシと叩いてうるさく感じるほどだ。ウィリアさんはそんな外を見て、俯いた。



「騎士になりたての時、街で剣を持った人が暴れてて‥、咄嗟に切りつけて止めたんだ。それが、自分の妹で‥、さっきみたいに操られていたんだ」

「え!?」



操られていた?

それに妹さんっていたっけ?

でもゲームでは長男だったのは覚えているから、下に兄妹がいてもおかしくないか‥。ルルクさんも操られていたって言ってたけど、どういうこと?私は騎士さんを監視していたルルクさんを見上げると、ルルクさんは眉を寄せ、


「‥それこそ「呪い」だ。人を操って誰かを攻撃したりする」

「な、なんで??!」

「何かを狙ってるんだろ」


何かって、なに???

っていうか、なんで人を操るの?

私は目を丸くすると、ウィリアさんが眉を下げて寂しそうに笑った。



「‥普通は、そんな思考にならないよな。でも妹は、貴族を狙って剣を持って暴れてたんだ」

「ええ??!!」

「恐らく、貴族を狙っていた誰かが妹を利用してたんだろう。妹を切ってしまってから、操られていたのに気が付いたけれど、嫁にもいってない妹には大きな怪我ができるし、不名誉な噂も立てられて‥」



ウィリアさんはギュッと手を握って、地面を見つめる。


「俺が騎士になるのを応援してくれてたのに…!」

「ウィリアさん‥」


そんなの、辛すぎる‥。

なんてあんまりな展開がウィリアさんを襲ったんだろう。

それは確かに剣を握っただけで、震えもくるだろうし、真っ青になる。アレスさんやタリクさんだって心配するはずだ。いまにも泣き出しそうなウィリアさんの背中を撫でて、私は何かできないかと考える。



ふと、野菜や果物が置いてあるのを見て、



「‥ウィリアさん、紋様をもう一つ描いてもいいですか?」

「‥なにを‥」

「弱っている今だから、描きたいんです。一つだけでも‥ね?」



ウィリアさんは、小さく頷いてくれて、私は急いで筆を取る。



私ができることなんて、紋様を描くくらいだ。

そして願うことは、いつだって幸せでいて欲しいって事だ。

そう思って、四つ葉のクローバーをウィリアさんの手の甲に描いた。



「葉っぱ?」

「葉っぱなんですけど、これは幸せになる四つ葉って言うんです。愛情とか、希望とか、幸福とか‥」

「‥俺に、こんな、」

「ウィリアさん、妹さんは今は?」

「今は、元気だけれど‥」

「じゃあ、この葉っぱは一枚は妹さんの幸せ。もう一枚はウィリアさんの幸せ、もう二枚は‥自分で何か願って下さい」

「俺がそんなこと‥」

「ウィリアさんが幸せになってはいけないってことはないんですよ?」



私の言葉にウィリアさんがハッとした顔をすると、とうとう堪えていた涙が頬を伝って‥、私は堪らずウィリアさんの背中を何度も撫でた。




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