恋愛ゲームの主人公、殺される???
昨日バイトした畑の途中の小高い丘でお昼はどうかと提案すると、満場一致でその場所で昼食を取ることに決まった。
女の子達は、普段は馬車での移動が当たり前なので「歩いて移動なんて新鮮ですわ」って言うから、思わず遠くを見つめてしまった。で、その遠くを見つめた先に、ルルクさんとリリベル様が並んで歩くのが目に入る訳で‥、私はその光景を見て、ズンとまた胸が重くなる。
‥これ、お昼食べられるかな。
そんな事を考えていると、隣のウィリアさんが私の手をぎゅっと握る。
「ユキちゃん、仕事はどうだった?」
「仕事ですか?特につつがなくできましたけど‥」
「そっか。それは良かった。剣の紋様のお陰で俺も怪我せず助かってるよ」
「そうですか?それは良かったです。またいつでも描きますよ」
「ありがとう。次も楽しみにしてる」
ニコッとウィリアさんが笑うと、その隣にいるピンク色の髪の女の子にジロッと睨まれた。‥そうでした。その子と付き合う気がないから恋人のフリをしてって言われたんだった。‥半分脅される形で。
とにかくバラされては困るので、気持ちを切り替えて努めて笑顔でウィリアさんを見つめ、
「ウィリアさんは、午前中は何をしてたんですか?」
「ああ、今日はダゴルに行く途中の橋を補修しに行ったんだ」
「橋?」
「ちょっと老朽化してるから、嵐も来るし補修して欲しいってレトさんにここぞとばかりに言われてさ〜」
「そうなんですね。確かに嵐が来るとここいらは‥」
危険なんですよね〜と、言おうとしたらピンクの髪の女の子がウィリアさんの腕にぎゅっと抱きつき、
「嵐が来るんですか?怖いです〜〜!」
あ、うん。
だからさっさと帰った方がいいよ。
喉まで出かかった言葉を飲み込むと、私の横にやって来たタリクさんがニコニコ微笑みながら、
「そうですね。なるべく早くに王都へ戻るか、ダゴルへ移動しておいた方がいいでしょうね。明日にでも移動しましょう」
「ええ?!でも、私せっかくの有数の別荘地でもう少し過ごしてみたいですぅ」
「セリア嬢、ここいらは今は危険ですからもう少し落ち着いてからでもいいと思いますよ」
タリクさんがチクリと帰れと言ってくれてる‥。
そこにホッとしつつ、セリアって名前なんだ〜と一応頭に入れておく。
周囲の女の子達も、セリアさんの言葉に同調するように頷いて、「湖もやっぱり一目だけでも見たいですわね」とか言ってるけど、だから危ないって言ったよね??って、心の中で突っ込んだ。
そうこうして小高い丘が見えてきて、皆で坂を歩いていくと、丁度上を登った所に花畑があって白い蝶や黄色の蝶が飛んでいる。それを見た女の子達はわぁっと声を上げて、花畑の方へ歩いていく。うん、そういう姿は可愛いな。
セリアさんは、ウィリアさんの腕を引っ張って、
「ねぇ、一緒に花畑を見に行きましょうよ」
と、大変積極的だ。
私はさっさとウィリアさんの手を離そうとすると、逆にウィリアさんの手が私を掴んでグイッと引っ張っていく。ちょ、ちょっと!??私は慌ててウィリアさんに視線を送ると、ウィリアさんは私に目配せしてまるで「付いてきて!!」とばかりに訴えるので、もうため息を小さく吐いて付いていく。
なんか子牛の気分なんだけど、ドナドナって知ってる?
タリクさんとアレスさんも気遣ってくれて、一緒に付いてきて女の子達に花の説明をしてくれているけれど、横目にルルクさんを見ると、リリベル様と一緒に並んで立っていて‥、なんだかあまりにも絵になるから、私は思わず視線を逸らしてしまった。
‥私は、見てるしかできないから。
つい俯いてしまうと、ウィリアさんの服にピョンと魔物虫がくっついた。
うわ!!お前かい!!私は慌ててウィリアさんに声を掛けて虫を払おうとすると、それを見たセリアさんが、
「きゃあああああ!!!虫!!!」
ウィリアさんを思い切り突き飛ばし、完全に油断してたウィリアさんがバランスを崩し、一緒に花畑に倒れてしまった。ウィリアさんの下敷きになって、トドメに頭にピョンと魔物虫が乗っかった‥。
もう散々なんですけど‥。
顔を上げると、ウィリアさんの顔が目の前にあって、目がパチッと合うとウィリアさんの顔が赤くなった。‥そうだった、本来は照れ屋だもんね。
「ユキさん、大丈夫ですか?!」
「ちょ、ウィリア早く退きなさい!!」
「わ、わかってるって!」
アレスさんとタリクさんが慌てて、ウィリアさんに手を貸して、私もようやく体を起こすとセリアさんが私を怒髪天を突く勢いで睨んでいる‥。あの、そっちが押したんですけど??!
怖いので目を速攻で逸らして、ルルクさんの方へ目を向けると、ルルクさんもあのゲームで私を殺すような目でこちらを見ていて…。
私はまたも速攻で目を逸らした。
なんで睨まれるの!!?私、何もしてないよ?!!もしかして悪役令嬢のリリベル様の影響で殺されるルートになっちゃったの??




