恋愛ゲームの主人公、色々考える。
翌朝、いつものように身支度して起きてくると、誰もいない。
あ、そっか。ルルクさん朝の見回りをまだしてたんだっけ。キッチンを覗くと昨日食べ切れなかった苺がジャムになってガラス瓶に入っていた。
「‥暗殺者なのに、ジャム作りまで」
思わず感心して呟いてしまった。
‥本当にルルクさんはなんでも出来ちゃうな?
ゲームでは私の首をスパスパと切って、今は料理も狩りもしてしまう‥。ルルクさんってもしや無敵では?なんて思っていると、玄関のドアが開く音がして、そちらに顔を出すと、ルルクさんがむすっとしたまま家に入ってきた。
「お、おはよう、ございます?」
「‥おはよう」
「どうかしたんですか?」
「‥ああ、昨日来た貴族達が遠乗りしたいから、一緒に同行してくれって」
「え!??」
リリベル様が??!
私は目を丸くして、ルルクさんをまじまじと見上げると、ルルクさんは眉間に皺を寄せたまま、
「仕事があるから無理だって言った」
「あ、そうですか‥」
ルルクさんの言葉にホッとしてしまう私‥。
ああああ〜〜〜、やな奴だよな〜〜〜〜!!!!
「‥だけど、昼飯を一緒にしようって言われて‥」
「え、ええ????!」
「それも断ったら、一人うるさいのにギャアギャア言われて、昼だけ今日は一緒にすることになった‥」
「あ、ああ‥」
一人ギャアギャアうるさいって、もしかしてあの薄いピンクの髪の子かな?
でも、お昼をルルクさんと一緒に食べても、ウィリアさんはいないけどいいのかな?ルルクさんは心底うんざりした顔で私を見たかと思うと、私の頭をおもむろにわしゃわしゃと撫でた。
「る、ルルクさん?」
「‥‥なんでもない」
「なんでもないって言って、なんで私の頭を撫でるんですか?あ、もしかしてもう疲れてます?」
「‥疲れた」
ルルクさんが、はぁっと息を吐いてそう呟いたけど、め、珍しい〜!
そんな風に言うの、初めて聞いた気がするぞ?
私も手を伸ばして、ルルクさんの頭に触れようとするけれど届かない。
ルルクさんがふっと笑って、少し屈んでくれたので、同じように頭を撫でてみた。
「よ、よしよし?」
「ふっ、なんだそれ‥」
「ルルクさんだって私の頭を撫でてるくせに‥」
「そうだったな」
そう言いつつ、私の頭から手を離し、今は私に頭を撫でられて面白そうにじっと私を見つめるルルクさん。なんか大きな動物みたいだなぁって思いつつ、疲れよ取れろ〜〜なんて思っていると、ルルクさんの手が私の髪を撫でた。
「‥る、ルルクさん?」
「少しだけ、このままで」
「‥なんか素直ですね」
「疲れてるからな」
そんなものなの?
私は首を傾げつつルルクさんの頭を撫でていると、ルルクさんの大きな手が私の髪を上からそっと優しく撫でて、ちょっと熱いくらいの手が私の頬も撫でた。えっと、そ、それは恥ずかしいかも?思わずルルクさんから目を逸らすと、ルルクさんが小さく笑って、
「こっちを見ろ」
「え、無理です」
「なんで」
「なんでって、ちょっと照れくさいというか‥」
「人を散々まじまじと見るくせに?」
「いや、今回はなんていうかケースが違いません?」
「ダメだ、こっちを見ろ」
「なんですか、それ〜〜??!」
私の頰を撫でる手がルルクさんの方を向けとばかりに急かすので、観念してちょっと赤いであろう顔でルルクさんを睨むように見つめると、嬉しそうに私を見て、
「‥元気だな」
「そりゃ、元気ですよ?」
「今日もそれでいろ」
そう言うと、そっとルルクさんの手が離れて、私の頭をさっと撫でるとキッチンへ行ってしまった。
‥もしかして、昨日の私を大分心配してた?
私、確かに気持ちが顔に出てしまうらしいしな。
昨日は色々考え込んじゃったから、そのせいでルルクさんも心配したんだろうな‥。
そんなルルクさんに嬉しいのに、どうにもできない自分の立場が切なくて、感情の蓋がグラグラと揺れてしまう。頑張れ、私の感情の蓋。今は君だけが頼りなんだよ〜〜。
「ユキ、朝食食べるぞ」
「あ、はい!」
キッチンから顔を出したルルクさんに元気に返事をすると、「声がデカイ」って言われたけど気にしない。だって、こんなやり取りも、いつまでできるかわからないんだから。それまで、楽しむしかないかなって‥。
ユキと同様声がデカイ私。
友達の名前を駅で呼んだら一斉に振り返られた声量です。




