恋愛ゲームの主人公は修羅ルート。
まさかの悪役令嬢との出会いに驚いた‥。
なんでここへ来たんだろうと思っていると、ウィリアさんが大きく息を吐いた。
「あ〜〜!!!良かった。これで諦めてくれるかな‥」
「ん?諦める?」
「ああ、さっきのリリベル様の取り巻きがいたろ?その内の一人が上官の姪っ子でさ‥、ずっと付き合って欲しいって言われてて無下に断れなくて‥」
不意に薄いピンクの髪をした女の子を思い出す。
そういえば、すぐウィリアさんの側へ来て、帰りたくないって駄々を捏ねていたけど‥もしや、あの子のことか?
「え!??じゃあまさか付き合うって‥、その為に?」
私が聞き返すと、ウィリアさんは眉を下げて笑い、
「‥剣を振るえない騎士だし、俺、そもそも付き合うとか、よくわからないんだよね」
「っへ?」
「学園にいた時も、剣の練習ばっかりで‥そういうのあんまり意識した事なくて、よく友達にからかわれたんだけど‥」
ちょっと照れ臭そうに話すウィリアさんに私は目を丸くした。
もしかして、あのチャラそうな姿はかなり無理してたって事?
「‥ウィリアさん、結構照れ屋ですか?」
「え?あ、ああー‥、女の子は意識し過ぎちゃってるのはあるかも?ともかく騎士としてやっていきたいから、そういうの今は考えられないんだ」
目元を赤くして照れる姿は、確かにゲームで見た紛れもないウィリアさんだ。
なぁーんだ、じゃあ私が別に好きって訳じゃなかったってことか。
あー良かった!フラグ一級建築士めって思ってたけど、騎士としてやっていきたいから私を利用したってことか。それなら全然オッケーですよ。
すると、ギルドの人達が裏の馬房から顔を出し、ウィリアさんを見回りに行こうと声をかけた。
「ともかく、悪いけどあの子達がいる間は恋人のふりを頼む!じゃあな!」
「はいはい、行ってらっしゃい」
最早フラグではないとわかった私はニコニコ笑ってウィリアさんに手を振ると、目を丸くしたかと思うと、またも顔を赤くして馬房にぶつかりながら裏へ走っていった‥。うん、照れ屋健在してたな。
「‥‥おい、仕事は大丈夫か?」
ルルクさんの低い声にはっとして顔を上げると、眉間に皺が寄っている。
‥何かあったのだろうか。
「そうでした。お客さんまだいるかな?」
「ひとまず、中へ戻るぞ」
「はーい」
仕事が終わったらルルクさんにどうかしたのか聞こうかな〜なんて思っていると、ルルクさんが私をじっと見つめる。
「ルルクさん?」
「‥‥無理に恋人のフリなんざしなくてもいいと思う」
「っへ?」
「‥あいつが、断ればいいだけの話だろ」
「え」
さっき別に私を好きでもなんでもなく、上官の姪っ子だから断れないという理由で恋人のふりをしろと言っていたのを気にしてくれていたのかな?
「ルルクさんは、本当優しいですよね‥」
「は?」
「別に私を好きでもないなら、大丈夫ですよ」
「‥そうじゃなくて、」
「え?」
「‥‥‥いや、いい」
どこか複雑な顔をして私を見下ろすルルクさん。
私としては私を好きでもなんでもないことがわかって良かった。
だってもしこのルートがウィリアさんだったら‥、私はルルクさんと離れないといけないかもしれないと思ってたから。それが何よりも安心だ‥。
残る問題は悪役令嬢とルルクさんだな。
どんな展開から、二人はそんな関係になったのか‥。ゲームでは暗殺者だったけど、どんな約束を交わして私を殺すことになったのか‥、その辺のストーリーを全く知らないのでどうにも手の打ちようがない。ということは、極力会わないようにすることが先決かな。
もし、何かのきっかけでルルクさんがリリベル様と呼ばれたあの悪役令嬢の元へ行ってしまったら‥。私は失恋と同時に命を落とすのか‥と思ったら、それはそれで泣けて仕方のないルートになってしまう。
どう考えても、幸せになれなくない?私‥。
チラッとギルドの中へ一緒に歩いていくルルクさんを見上げ、ことごとく私は恋愛ゲームの主人公なのに、なんという修羅のようなルートを歩いているのだろうと思って、大きくため息を吐いた。




