恋愛ゲームの主人公、悪役令嬢と顔合わせ。
そういえばタリクさんが生徒が来るけれど気をつけてって言ってた‥。
もしかして王子かな〜?いやぁ、そんな攻略対象断固お断りって思っていたら、まさかの悪役令嬢やんけ!!
薄紫の長い髪はツヤツヤで、黒いボレロに白いワンピースという出で立ちがなんていうか、悪役令嬢っぷりを際立たせている。
内心、心臓がものすごい速さで鳴っている私にウィリアさんが私を見て、にっこり微笑む。なに!??なにが言いたいの??私は完全にパニック状態でウィリアさんを見つめ返すと、馬車から3人女の子達が降りてきた。
え、まだいるの??
もしかして悪役令嬢の取り巻きの子達か?
どの子も可愛いけれど、恋愛ゲームではあくまでモブだったし、誰が誰なのか皆目見当がつかない!!
「あら、ウィリアさんったらもう可愛い女の子に声を掛けましたの?」
「もう悪い方。でも、すぐに振られてしまうでしょうよ」
「え、それってウィリア様?」
「ええ〜、どっちかしら‥」
クスクスとこちらを見て意味深に笑う女の子達‥。
第一印象から最悪だな。
私の横にいたルルクさんなんて、眉間に皺を寄せて今にも舌打ちしそうな顔だ。でもやめてね、確か悪役令嬢って身分の高い人だったし‥。
チラッと悪役令嬢であるリリベル様とやらが、私を見て、
「‥初めまして。もしかしてウィリア様の良い方‥で合ってるかしら?」
「え、ええっと‥」
「実はそうなんです。一目見て、恋に落ちました!」
ハキハキと話すウィリアさんに、後ろの女の子達がきゃあっと声を上げる。
上げんでいい。むしろ笑い飛ばしてくれ‥。
しかしウィリアさんの顔を見ると、もうそれは貼り付けたような笑みに「絶対押し通せ」と書いてあるように見えて‥、私はフラグが立ちませんように‥と、祈る気持ちで曖昧に笑った。
すると、大きくて立派な馬車がもう一台こちらへ走ってきて、すぐにリリベル様達が乗ってきた馬車のすぐ横に止まると、そこからタリクさんとアレスさんが降りてきた。
「おや、リリベルさんに皆さんまでお揃いで‥」
「まぁ、タリク先生にアレスさん!」
「ふふ、僕はもう学園を辞めた一人の学者ですからね、タリクで構いませんよ」
「まぁまぁ、そんなこと仰って‥」
にっこりとリリベル様は笑うと、
「実はここに来るまでに湖に魔物が出たと聞きましたの」
「ええ、事実です。大変危険なので王都へ戻る方が良いかと‥」
タリクさんがそう話すと、女の子達が「ええ〜〜」「そんなぁ〜」って言い出したけど、あの大蛇を見たら絶対回れ右するぞ?そう思っていると、薄いピンクの髪色のボブくらいの女の子がウィリアさんの横に来て、
「え〜、でもそれでしたら周辺の散策くらいはしたいですわ」
「そうですわね!アレス様のお菓子屋さんもこちらでオープンしたんですよね?」
「それなら是非伺いたいわ!」
お、おいおい!!!何余計なことを言ってるんだ!
さっさと早く帰ってくれ〜〜!と考えていると、リリベル様がアレスさんを見て微笑み、
「申し訳ないけれど、お店にお邪魔させて頂いてもよろしいですか?」
「は、はい。もちろんどうぞ!」
わっと女の子達が嬉しそうに喜んで、私はそーーっとルルクさんの方へ体を移動させていると、ピンクの髪の女の子が急にこちらをパッと見て、
「ウィリアさんのお気に入りの貴方、お名前は?」
「え?ゆ、ユキと申しますが‥」
「へぇ、ユキ‥。庶民なのね」
「はぁ、庶民ですが‥」
今はね。
と内心付け加えておくけれど、ウィリアさんの顔が若干引きつっている。‥ウィリアさん、もしかしてポーカーフェイス苦手な感じ?
「では、ユキさんもご一緒にお茶をしましょうよ!」
「え?い、いえ私はまだ仕事が‥」
「ええ?!仕事をなさっているの??」
当たり前である。
こちとら今はしがない一般庶民。
普通に働いて稼ぐのが普通なんだわ。‥まぁ、貴族だって領地運営が出来なくなったらそれはそれで大変だけどね。どこか遠くを見つめつつ、驚く貴族の女の子達に口を引きつらせつつ笑うと、大変ね〜と同情された。いいんです、好きでもないおっさんに借金のかたで売られるよりずっと私は幸せなんで。
リリベル様は目を細めると、
「お仕事の邪魔をしては申し訳ないわ。ユキさん、どうぞ頑張って下さいね。それでは失礼します」
凛とした声でそういうと、タリクさんがサッと手を出すと当たり前のように手を置いてエスコートされ、アレスさんの店まで少しですと説明されると観光がてら歩いていきましょうと話して、アレスさんも女の子達に囲まれて引きずられるように行ってしまった‥。
そして姿が見えなくなった途端、体の力が抜けて思わず地面にへたり込んでルルクさんに思い切り心配された私がいた。‥良かった!!!とりあえず私もルルクさんも無事だった!!!




