恋愛ゲームの主人公と悪役令嬢。
ルルクさんに勝負で負けた翌朝。
昨日、あらかたの騎士さんと警備隊の人達に紋様を描いたので仕事はないかな〜と思いつつルルクさんと一緒にギルドに行くと、昨日と同じく人でごった返していた。
「そういえば、ダゴルの街に運ぶって言ってましたもんね‥」
「ああ、朝の見回りに行った時、今回は厳重に行くと話していたが、うちのギルドからも何人か同行するんだな」
ギルドの中をぐるっと見回して、ルルクさんがそういうけれど肝心のルルクさんは?このギルドの中で一番強いのって、主にルルクさんじゃないの?不思議そうにルルクさんを見つめると、私を呆れるように見て、
「なんで雇用主を置いていくんだよ。お前を置いていくと、ロクなことにならないのはいい加減学んだからな。ここにいる」
「まさかの私のせいだった!!!すみません!!」
「お前が謝ろうが、嫌がろうが、いるつもりだったがな」
「え、そんなに固い決意???」
それはそれで申し訳ないというか‥。
眉を下げる私に、ルルクさんがおかしそうに笑って、「あと弁当は二人で食べると美味いしな」と言うので‥、朝から心臓が潰れそうになった‥。暗殺者の殺傷能力、ますます磨きが掛かってるな。
と、後ろからドタドタとこちらへ走ってくる音が聞こえて、振り返るとウィリアさんが笑顔で手を振っている。
「お、ユキちゃんだ!おっはよ〜〜!」
「あ、ウィリアさん!昨日はありがとうございました」
「いやいや、俺は何にもしてないから。そっちの彼のが大活躍だったでしょ」
「‥ウィリアさん」
「そういう顔しないの〜。じゃ、俺は今日はギルドの人と見回りだから、またね〜」
カラッと笑って、ギルドの人達の方へ向かっていったけど‥。
どことなく空元気なようにも見える。
それでも仕事をいじけて放棄せず、自分ができることをしようとしている姿は勇気があるなぁって思う。だって昨日、剣を構えただけであんなに青い顔をしていたのに、翌日は笑顔って‥素直にすごいよね。
「‥ユキ、仕事の準備をするぞ」
「あ、はい」
ルルクさんが私の頭をわしゃっと撫でると、用意されたテーブルまで私の仕事道具の籠を持っていってくれた。‥これはもしかして気持ちを切り替えろ的な?チラッとルルクさんを見ると、ふっと笑った。
‥本当に暗殺者はいちいち格好いいよなぁ?!
私は早速仕事道具をテーブルに並べると、白い魔石を輸送する騎士さんや警備隊の人達が「念の為に‥」と守備力強化とか、攻撃力強化を注文してくれて、急いで描いた。なにせ出発の時間も差し迫っている。なんとか紋様を描き終えて、筆を置くと‥、
「よし、準備できたな?そろそろ行くぞ!」
騎士の偉い人だろうか、髭を生やした騎士さんの掛け声と共にぞろぞろと皆ギルドを出て用意しておいた馬にそれぞれ乗ると、大きな荷車に厳重に保管された白い魔石を持っていく。
ルルクさんと一緒にギルドの前でその様子を見るけれど、なかなかに圧巻だ。
「なんだかすごいですね‥」
「魔物も寄せ付けるからな。黒の魔石で周囲を固めてあるらしい」
「ああ、魔物避けの魔石‥。あれも結構高いですよね?」
「そりゃ、今回大蛇も出たから高くてもしっかり用意しておくだろ」
「確かに‥」
ウンウンと頷きつつ、ゾロゾロとダゴルの街へ向かう行列を見送っていると、その横を大きくて立派な馬車がこちらへ走ってくるのが目に入った。
「‥この危ない時期に、観光ですかね」
「貴族ってのはお気楽でいいな」
ルルクさんが冷めた目でその馬車を見ていると、ウィリアさんが急いでこちらへ駆け寄ってきた。
「ウィリアさん?!」
「ユキちゃん!!俺と付き合っている設定ね!わかってるよね?」
必死な形相に私は思わずコクコクと頷くけれど‥、
なんで?どういうこと??目を丸くしていると、その立派な馬車がギルドの前に静かに止まると、ドアマンの人が厳かに馬車のドアを開けた。
すると一番先に、薄紫の長い髪を下ろしたキリッとした女性が降りてきた。
と、ウィリアさんがサッと敬礼すると、その女性が優雅に微笑む。
「‥ウィリアさん、お久しぶりです」
「は!リリベル様も御健勝のようでなによりです」
「ふふ、そう畏まらなくてもいいのよ。同じ学園で学んだ仲ではありませんか」
そう言って、鈴を鳴らすように笑うけれど‥、
リリベル様‥
リリベル様って‥、
『乙女花に舞う』に出てきて、恋愛ゲームの主人公である私にこれでもかと難癖を付け、妨害し、果てに暗殺者を仕向け、私の首を切ろうとする悪役令嬢ではないか!!!!
まさかの悪役令嬢の登場に、私は真っ青になった。
もしかしてとうとう私の首が切られるフラグ回収が来たのか?!そう思ったら、背中に冷や汗が勢いよく流れた‥。




