恋愛ゲームの主人公、紋様描きます!
騎士さん達と警備隊の人達が設営したテントまでルルクさんに抱き上げられたまま歩いていくと、テントの中にはレトさんがコットの上で寝ている。
「レトさん!?」
「ユキ?!大丈夫だったみたいだな‥、良かった‥」
ルルクさんが私を降ろしてくれて、私はレトさんの側へ駆け寄った。
「どこを怪我したんですか?!」
「‥いや、それが馬から落ちた時はわからなかったんだが、ギックリ腰をやったらしくて‥」
「ああ〜〜‥」
レトさん、腰が弱いのに私を庇ったから‥。
思わず涙目になると、レトさんが腕を伸ばして私の頭をワシワシと撫でた。
「泣くな、泣くな。ともかくお前さんが無事で良かったよ。紋様もついでに頼む‥」
「すぐに、すぐに描きます!!」
目をゴシゴシと擦って、肩に掛けていたカバンを下ろしてから、案内してくれた騎士さんを見上げる。
「レトさんを先に描いてもいいですか?」
「もちろんです。彼なくしてこの仕事は出来ませんから。その間に治療が必要な者達を連れてきますね」
「よろしくお願いします!」
騎士さんがニコッと微笑んでくれて、私も釣られるように微笑む。
よし、頑張るぞ!腕まくりして、早速仕事道具を出そうとすると、ルルクさんがどこから椅子を持ってきて座面に道具を置くように言ってくれた。‥優しい、そして気遣いが有難い。
仕事道具を置かせてもらって、急いでレトさんの差し出してくれた腕に『腰痛改善』『回復促進』の紋様と、よく効くように模様に隠すように同じ意味の日本語を書いた。頼む〜〜〜!レトさんの腰を劇的に改善してくれ!金色に紋様が光って、静かに消えるとレトさんがホッと息を吐いた。
「すごいな、紋様を描いてもらったらすぐに腰の痛みが楽になった‥」
「本当ですか?」
「ああ、お前腕が上がったんじゃないか?」
「それなら嬉しいです。まぁ、確かにここの所、ものすごく描いてたからかな?」
タリクさんに、アレスさん、そしてシヴォンさんなんてそれはもう描きまくった。魔力も願いも込めるのが上手くなったのなら、それはそれで良い機会だったのかも‥。いや、できれば攻略対象が相手じゃないのが一番いいんだけど。
そんな話をしていると、次々と騎士さんと警備隊の人達がテントの中へやってくる。
流石に訓練していても、大きな蛇がいきなり林から飛び出してくれば、すぐに反撃できないよね‥。それでもすぐにルルクさんが撃退してくれたらしいけど‥。流石やなぁ、元戦士。
白魔術師さんが怪我が深い人を、私は比較的軽傷の人に紋様を描いて、ついでに魔物の気配をすぐ察知できるようにと騎士さんや警備隊の人達に紋様を描いたから、結構な人数になってしまった‥。
「お、終わった‥!!!」
午前中も結構描いたのに、午後もこんなに描いたのって初めてかもしれない‥。テントの端っこで、ルルクさんと座って頂いたお茶を飲んでいると、ルルクさんが胸ポケットから小さな紙袋を出す。
「おら、飴でも食っておけ」
「ありがとうございます‥。って、ルルクさん飴を常備してるんですか?」
「‥綺麗だからな」
ふっと笑って、黄色の蜂蜜色の飴を渡してくれたけれど‥、ルルクさんって暗殺者なのに、可愛いもの本当に好きだなぁ。黄色の蝶といい、花といい。まぁ、そういう所が可愛いんだけど‥。
飴を口に含むと、じんわり甘くて疲れ切った体に大変沁みる。
「美味しい‥、疲れが取れる」
「そりゃ良かった」
ルルクさんが私を見て、目を細めてジッと見つめるから感情の蓋が驚いて動き出しそうになる。あ、あの、そんな瞳で見つめられるとドキドキしちゃうんですが?!!
「ユキ‥」
低いルルクさんの声に、心臓がビクッと弾ける。
やばい、なんか、うまく声が出ない。返事をなんとかしようとするのに、喉が、舌が動かない‥。
「ユキさん!!ここにいたんですね〜〜!」
「ユキさん、お怪我は?大丈夫でしたか?」
と、元気に私を呼ぶ声がした方を見ると、タリクさんとアレスさんがちょっと泥だらけになりつつこちらへ走ってくる。二人ともそんな泥だらけでどうしたの?驚いて目を丸くすると、ルルクさんが小さくため息を吐いた。ど、どうした?ルルクさん、もしかして疲れた?
 




