恋愛ゲームの主人公、気合いを入れる。
ルルクさんと湖でボートに乗って、蝶の群れも見て、なんだか思い出すだけで胸がドキドキしてしまうそんな夜だった。
あれから少しして、ボートを元に戻した頃にレトさん達がやってきて、「そろそろ戻るぞ〜」なんてニコニコして言ってくれたけど、どこかで見てたんだろうなぁ‥。照れ臭いけど、そのさり気ない配慮有り難いしかないです。
どこか夢心地の気分のまま、ルルクさんと家に帰って仕事もあるので、すぐにベッドに入ったけど‥。また一緒に見たいなぁって思いながら私は瞳を静かに閉じた。
そうしてあっという間に翌朝。
あれは夢だった?いや、現実だった。
思い出すと顔が赤くなってしまうし、思わず緩んでしまう。
しっかりと気を引き締めねば!!そんな決意を持ってキッチンへ行くと、ルルクさんがいつものように朝食を作っている。
おかしいなぁ。
ここは私の家なのに、キッチンはすでにルルクさんのモノになっているな。
美味しそうなベーコンを焼いているルルクさんは私を見ると、すぐに挨拶してくれて、
「もう飯できるぞ」
「じゃ、テーブル拭いてきます」
「わかった。よそったら持っていく」
今日も今日とてルルクさんが朝食を作ってくれて、私は配膳係である。
たまにはパンくらい切らせて欲しい。でも暗殺者として、ギザギザに切ってしまうパンは未だ許せないらしい。この間、久々に切っておこうとしたら、パンナイフめっちゃ研がれてたし‥。スッとパンにナイフが入った時は驚いたし、首がスースーしたっけ‥。
と、ふんわりといい匂いと共にルルクさんがベーコンと野菜を添えたお皿を持ってきてくれた。
「おら、思考の海から顔を出せ」
「今出しました〜〜」
「おう、じゃあパンも持ってきてくれ」
「はーい」
キッチンへ行くと、綺麗に等間隔に切られたパンが籠の中にきちんと整列されている。‥私の首と胴体がこうはなりませんように‥。祈るように見つめてから、テーブルへ運ぶとルルクさんがお茶を淹れたカップを置いてくれた。完璧か。
「昨日といい、今日といいルルクさんに頭が上がらない‥」
「別に大したことしてないぞ?」
「いやぁ、私としては感謝しかないですよ」
こんな美味しいご飯を暗殺者が用意してくれて、しかも三食食べられるなんて誰が想像しただろう。恋愛ゲームの主人公の私でさえ想像できない。
パクッとベーコンを食べて、それだけ頬が緩むと向かいの席に座っているルルクさんが眉を下げて笑う。
「そんだけ元気そうなら、大丈夫そうだな」
「私はいつだって元気ですよ。今日も頑張ります!」
‥そう。
例え、ゲームであれば婚約者。
今はフラグ一級建築士の攻略対象のウィリアさんに脅されていても‥。
おっかしいよね〜。
恋愛ゲームの主人公が攻略対象に秘密をバラされたくなければ付き合ってとか‥。本当にこのゲームのシナリオとキャラ設定を考えた人、一歩前に出て欲しい。ハリセンでどつきたい。
「まぁ、大丈夫ですよ。だってルルクさんがいてくれるし」
そういって、綺麗に切られたパンもそのまま豪快に齧った。
うん美味しい。もぐもぐと咀嚼していると、向かいの席に座るルルクさんが私をじっと見つめ、
「‥お前は、本当に」
「なにかマズイ事、言っちゃいました?」
「‥‥いや、なんでもない」
そう言いつつ、ルルクさんは自分の眉間の皺を指でグリグリと押して、小さくため息を吐いた。
「そうだな、何かあれば俺にすぐに声を掛けてくれ」
「よろしくお願いします!」
「あとなるべく離れないようにな」
「そこはもう!」
「いざとなったらお前の料理を口に突っ込め」
「どんな状況ですか?!それに若干酷い事言ってますよ???」
私がルルクさんをじとっと睨むと、おかしそうに目を細める。
「じゃあ、他には?」
「え?えーと、間抜けな紋様を描いておくとか?」
「それはいいな。半径5m接触禁止にしておけ」
ルルクさんの思わぬ提案に目を丸くする。
そんな事言っちゃうんだ??でも、それはシヴォンさんと同じ「呪い」になっちゃうからなぁ‥。
「せめて、ジャンプしないと近寄れないくらいにしておこうかな」
と呟くと、ルルクさんがぶっと吹き出して、そのままむせてしまった。
だ、大丈夫??!!




