恋愛ゲームの主人公、ですからね。
それから2日間は、ほぼルルクさんと一緒に過ごした。
もちろんその間は、ウィリアさんと会うことはなかったので大変ホッとしている。しているけれども!攻略対象はまだここにいるのだ。大変怖い。
よく晴れた庭先で洗濯物を干しつつ、ウィリアさんルートを思い出す。
そもそもまずウィリアさんはストーリーが始まる前にルートを選択できるんだよね。なにせ婚約者になるから。で、ストーリー通りだったら私と8歳で婚約してそれまでは仲良く過ごすけれど、12歳くらいになると照れも出てきて、会うのも年に数回になって‥。ようやくマリーベル学園に一緒に入学!だけど変わらず素っ気ない婚約者。
気にせず同級生の皆と仲良くしていた私に、それまで素っ気なかったはずのウィリアさんが急接近。
照れくさそうな顔で、
「お前の婚約者は俺だろ‥」
と、話すウィリアさんに「あんた放置してたくせに何言ってるねん」と思ったけど、意識したら話せなくなってしまったけど、学園に入学したら今度こそ‥と思っていたとウィリアさん。そんなん単純な乙女の代表格の私はキュンとするだろ。騎士科に入学していた彼と会うのは、お昼の休憩時間と、訓練場で訓練しているのを眺めたり、差し入れする時間だけ。
そこで足繁く通って愛を深めないと、すぐに悪役令嬢が来るんだわ。
速攻で二人の仲を引き裂こうと、あの手この手を使う。
それでもなんとか仲良くなって、卒業したら結婚しよう!と告白された途端にお決まりの暗殺者ですよ。
「‥あの時の暗殺者強かったなぁ〜」
タオルをロープに掛けつつ、しみじみと呟いた。
なんせ学園中を追いかけてくる。指が操作で追いつかない!!
攻撃してもクリティカルが大きい。あれ?待って??恋愛ゲームだったけど、あれはアクションゲーム要素あったな???
もしかして、今回はアクションゲーム要素入るとか‥?
そう思ったら、ゾクッとする。
「‥いや、そもそも私には関係ない。関係ない!」
ハンカチを干して、クルッと体の向きを変えて家に入ろうとすると、ルルクさんがキッチンで何かを作っているのが目に入った。‥うん、我が家で何かを作っているあの暗殺者が、まさか執拗に私を狙うなんて誰が想像できよう。
今日のお昼はチキンソテーとオムレツだって言ってた。
異世界版親子丼みたいなもんだなぁと思いつつ、いい匂いがするキッチンを見ていると、窓越しにルルクさんと目が合って、小さくふっと笑ったかと思うと、手を振ってくれた。
うううう〜〜〜!!!!
ギュンってしちゃうだろ!心臓が!!!
笑って手を振ってくれるとか!!!可愛いだろ!!暗殺者!!!
思わず持っていた洗濯籠を頭から被って、顔を隠したけどしょうがないじゃないか。絶対赤面してるって自覚あるし‥。
気持ちを伝えない、言わない、バレないようにが大前提で再雇用したのに、雇用主の私が気をつけなくてどうする。必死に気持ちを抑えて、家の中へ入ってから洗濯籠を頭から下ろすと、キッチンからルルクさんが顔を出す。
「今日はギルドで聴取だしな、早めに食べるか」
「‥は〜〜い‥」
ギルドで聴取。
例の騎士団の人達への説明ね。
どんな状況だったかは、ルルクさんやギルドの人達の説明でわかったので、あとはもう一度誘拐された私本人からも、状況確認したいと騎士団から言われて、まだお休みは残ってたけれど来てくれと、あれからルルクさんを通じてレトさんから言われて‥。本日は、ルルクさんと行くことになったのだが‥気が重い。大変重い。
「‥なんだその顔。うまくないのか?」
「いえ!!お肉もオムレツも、ものっすごく美味しいんですけど、緊張して」
「緊張‥?」
お前が?とでも言いたげなルルクさんに私はじとっと視線を送る。
これには色々理由があるんだよ?
ストーリー回収の為なのか、ともかく私の元へ攻略対象のウィリアさんが来てしまった‥。これはもう逃げようもない事実。だけど、今度こそ私は接触しないようにするんだ!!目指せ!フラグ回避!恋愛ダメ!絶対なのだ!!!
そう美味しいお昼ご飯を食べ、決意を強くもって聴取に挑んだ私。
ギルドの奥の部屋を案内され、部屋へ入ろうとドアを開けると、
目の前にはウィリアさんがいた‥。
思わず開けた扉を閉めたけど、閉めるよね?閉めちゃうよね??
「どうぞ?」
って言われたけど、開けないとダメ??
なんでよりにもよって攻略対象がいるんだよ!!!と、慟哭した私は恋愛ゲームの主人公であった‥。




