恋愛ゲームのフラグはへし折っていく。
鳥を狩ってきてくれたのは嬉しいけど、まさか首を落としてくるとか!!
私は自分の首が切られたイメージしかできなくて、思わず叫んでしまったけど‥無理ないよね。
「‥そんなに怖いのか」
ルルクさんの言葉に私は頷くしかなかった。
だって貴方、ゲームでは私の首をスパスパ切るんだもん。
怯える私の顔を見て、ルルクさんはそれをキッチンに持っていくと「捌いておく」って言うので、もうお願いすることにした。本職にお願いするのが一番であろう。
そうして、身支度をしている間にルルクさんは鳥を捌き、いつも見る切り身となった鳥がお皿にのせられていて‥私は結果的にこうなりませんようにと祈る気持ちで冷蔵庫にしまった。
「今日は、調査に行く奴らの紋様をまた書くのか?」
「いえ、効力は3日は続くように描いたから大丈夫だと思うんですけど、不安な人はまたお願いするかも‥。あとは怪我人がいれば治癒促進の為に描くくらいかと」
なので、今日はすぐ終わると思うんだ‥。
ただトニーさんのことを話すのが気が重いといえば重いけど。
ちょっと緊張した体をどうにかしたくて小さく息を吐くと、ルルクさんが私をじっと見つめて、
「大丈夫だ」
「‥そう、ですよね。今回はルルクさんもいるし。あ、でも無理はしないで下さいね!!絶対ですよ!」
「‥わかっている」
本当かなぁ。
無理しなきゃいいって言ってたのに、鳥を狩りに行っちゃう人だよ?不安しかない。そう思いつつも、私がちょっと焦がしてしまった目玉焼きとパンを食べた。
そうして、ギルドに行くべく仕事道具を纏めて、ルルクさんの待つ玄関へ行くと、ルルクさんは右側の前髪の長い方の瞳に黒い布で出来た眼帯を付けている。
「怪我したんですか!??」
「‥違う」
「え、じゃあ痛いんですか?紋様描きますよ!!」
「‥大丈夫だ」
「ええ、でも‥」
「こちらの瞳だけ、太陽の光に弱い。眼帯をしていても問題ないから安心しろ」
そ、そうなの??
それなら良かった‥。
ホッとしてルルクさんのコバルトブルーの瞳を見ると、どこか呆れたように私を見つめていたけれど‥、心配しているのになんでそんな顔で見られなければならないんだ‥。
そうして、いつも通る林の中をルルクさんと一緒に歩くけれど、終始無言である。
‥ま、まぁ、いいか。
お互い雇用主と雇われた暗殺者だし。
いや、殺さない。誰も殺さないけど。
やがてギルドが見えてきて、私の心臓がドキドキと速くなる。
トニーさんいるかな‥。なんて顔をするべきかな。
できればレトさんにそれとなく注意してもらうくらいがいいかな。あんまり事を荒立てると、どうなるかわからないし‥。ギルドの重い扉のドアノブに手を掛けて、深呼吸してからグッと腕に力を込めて扉を開ける。
と、ワッと昨日と変わらない熱気に私は思わず後ずさりすると、ルルクさんの体に当たってしまう。
「わ、す、すみません‥」
「大丈夫だ。それよりもしっかり顔を上げておけ」
「は、はい」
ルルクさんはそう言いつつ、サッと周囲を見回す。
と、カウンター奥にいるレトさんがこちらを見て、目を見開いた。
「ユキ?そいつは、客か?」
「え、あ、あの」
雇った暗殺者って言ったら混乱するか。
私はなんて言ったものかと、ルルクさんを見上げると、
「‥もう少し込み入った仲だな」
「る、ルルクさん??!!!」
私の声が思わず裏返ると、レトさんが面白そうに目を輝かせてこちらへやってくると、ルルクさんを上から下までジロジロよく見てから、サッと手を差し出す。
「ギルドマスターのレトだ。ここにユキが来てから、そんな奴を連れてくるなんて初めてだから‥いや、不躾に見て悪い!」
「‥構わない。ルルクだ。よろしく」
ルルクさんがレトさんの手を握ると、レトさんはルルクさんの大きな手を見て、
「剣だこがすげーな!大剣、長剣?」
「‥一応、どちらも。最も引退した身だ」
「そうかぁ〜〜!何かの際にはぜひ手伝って貰いたいくらいの体付きなんだがな!」
「だ、ダメですよ!ルルクさんに無理させちゃ!!」
なにせ今は怪我をしているんだ!
私が必死にそういうと、レトさんはニマニマ笑って、
「なんだ、ユキ。随分と大事にしてるんだな!!」
「え、あ、いや、そうであって、そうでないような…」
だ、だぁあああ〜〜!!
色恋禁止の私に変なフラグを立てないでくれ!!
と、色恋でトニーさんのことを思い出して、レトさんに話をしようとすると、
「あ、ユキちゃんおはよう〜〜!」
ドキッと心臓が跳ねて、私は恐る恐る後ろを振り返ると、いつものように髪を逆立ててヘラリと笑うトニーさんが立っていた。あ、あれ??もしかして、何も気にしてない感じ???
最近目を怪我して眼帯付けてたんですが、いや〜危険!
めっちゃ転んだ!!ルルクさんすげー!って思ってます。




