恋愛ゲームの主人公、飲酒は20歳から。
ソファーで寝ます!と宣言して、最初は眠れるかな?なんて思ったけれど、ルルクさんの本をめくるページの音が心地よくてすぐに寝てしまった。
そうして、ふっと目の前が明るく感じられて‥、瞳を開けると、
真っ暗な中に金色の蝶がふんわりと飛んでいるのが目に入った。
ああ、ルルクさんの好きな蝶だ。
不意に蝶に手を伸ばしたその時、
「起きたのか?」
頭上で声が聞こえて、瞬きをするとソファーから腕を伸ばしている私を、ルルクさんが椅子から見ているのに気が付いた。あれ??蝶は?思わず周囲を見回すけれど、何もいない‥。
「‥夢、だったのかなぁ‥」
「何か見えたのか?」
「えーと、蝶が‥」
ソファーから起き上がってそう答えた瞬間、私の後ろで何かが光って、パッと後ろを振り返るとリビングのテーブルの上に、大きなガラス瓶に入った水が淡く光っていて、よく見るとその水の中に淡く光る枝が見えた。
「枝が‥。っていうか、あの水は?」
「タリクが「湖の夜明け」を見られないだろうからって、わざわざ瓶に入れて持ってきたんだ」
「え?!いつの間に‥」
「お前が寝てる間にな。あとアレスはお菓子を置いていった」
「‥それは俗にいうお土産では??」
置いていったって‥、思わず笑ってしまうと、ルルクさんはその大きなガラス瓶の蓋をポンと叩いて、
「元気になったら、夜にでも一緒に見に行こうと思っていたが、今日はこれを見てお祝いするか」
「わ、いいですね!!」
素敵な提案に思わず笑顔になると、ルルクさんが目を細める。
‥う、なんかその瞳がなんていうかそわそわしちゃうんですけど‥。
「そろそろ夕方だが、何か食べられそうか?」
「それが、お腹はしっかり空いているらしくて‥。えーと、火を使わない料理なら手伝います!」
「そいつは賢明な判断だ‥。テーブルを拭いて皿を出してくれ」
「料理って言ったのに!」
「‥パンでさえギザギザに切るのに?」
「あれは、ちょっと包丁が‥」
そりゃ暗殺者にとっては、あの切り口は許せない出来栄えかもしれないけど、切れればいいじゃないか〜〜!せめてパンくらいは。
結局ルルクさんが作った素晴らしいサラダやアレンジをしたスープ、高いサラミやチーズ、パンと、タリクさんが持ってきてくれた大きなガラスの瓶をテーブルに並べると、ルルクさんがどこに隠していたのかワインを持ってきて、ワイングラスに白いワインを注いでくれた。
「前は赤でしたけど、今日は白なんですね」
「‥通な言い方は知ってるのに、味は知らないってのも面白いな」
「もう!知識は大事なんだから、この際いいんです!じゃあ乾杯〜!」
私がルルクさんにグラスを傾けると、ルルクさんが笑ってグラスを傾けてくれた。
チンとガラスがぶつかる音がして、なんだかそれだけでドキドキする。
「少しずつ飲めよ」
「は〜い」
美味しい晩御飯を食べつつ、ルルクさんとまたもお酒を飲むとか‥、何かこれフラグじゃない‥よね?と、ガラスに入った瓶が明るくて気が付かなかったけれど、外が大分暗かったんだな。確かに昨日魔物虫に追われていた時も、明るいなって思ったけど‥。ガラス瓶をもう一度まじまじと見つめる。
「これすごく明るいですね‥」
「ああ、部屋に置いておくだけで照明の代わりになりそうだな。タリクも白い魔石と、水と枝が関係しているのか‥これから突き止めるって話してた」
「ああ、想像できる〜。目をキラキラさせてたでしょう?」
思わずタリクさんがニコニコ笑いながら、ガラスの瓶を抱えている姿を想像すると笑ってしまう。一方のルルクさんはなんだか眉間に皺を寄せてちょっとムスッとしたけれど‥。
ひとまず自力で照明を見つけられそうだな。
これならフラグ回避をしたと思っていいのかな?それなら安心だなぁ〜と思いつつ、ワインをごくっと飲むと、ルルクさんに「一杯だけだぞ」と言われて、唇を尖らせた。
「自分だっていっぱい飲んでるのに‥」
「‥お前は、まだ昨日の今日だからな?」
じとっと睨まれたけど、そうは言いつつ色々準備してくれたルルクさん。
‥本当、なんだかんだで優しいよね。ふっと笑って、
「はいはい、お子様は言う事聞きますよ」
「‥それは、」
「あ、ついでにもう一つお祝いしてもいいですか?」
「なんだ?」
「‥再雇用の、お祝いなんですけど‥」
まだグラスに残っているワインをルルクさんへちょっと傾けると、ルルクさんは目を丸くしたかと思うと、ニヤッと笑ってグラスを傾けてくれた。
「‥これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
顔を見合わせて、二人で笑ったそんなどこかこそばゆくて、でも柔らかい空気の流れるそんな夜で‥。やっぱりお約束のように酔っ払った私はずっと笑っていたらしい‥弱すぎないか?恋愛ゲームの主人公なのに。




