恋愛ゲームの主人公、色々起こす。
シヴォンさんの送ってくれた馬車でしっかりがっつり眠ってしまったらしい私。
目を覚ましたら、ルルクさんのハンモックだし、お昼だし、驚いて起き上がったらまた落ちそうになった。っていうか落ちた。
ベシャッと落ちて、体を起こそうとしたらガチャッとドアが開いて、ルルクさんが私を見たかと思うと呆れたような声で、
「なんですぐに落ちるんだ‥」
「ちょっと間違えちゃったんです!」
「どんな間違えだよ‥、ある意味器用だな」
そう言いつつも手を差し出してくれる辺り、暗殺者優しいよね。
ゲームの中でなんであんなに私の首を執拗に狙っていたのか、今では疑問に思うくらいだ。ルルクさんに手を引っ張ってもらって立ち上がると、なんだかいい匂いがする。
「なんか、いい匂いがする‥」
「起きてよくすぐに気が付いたな。昼飯、用意したけど食べるか?」
「食べます!」
「そりゃ良かった。鳥のスープだぞ」
「やったぁ!私の好きなやつだ!」
にこーっと笑って、ルルクさんを見上げると、ルルクさんはちょっと目を丸くしたかと思うと、眉を下げて笑った。
「それだけ元気なら、大丈夫だな」
「あ、はい‥。今回もご心配をお掛けして‥」
「まったくだ。今回も心臓が止まるかと思った」
「ルルクさんでも心臓が止まるかと思うんですね」
「‥俺の心臓は最近繊細らしくてな」
そうなの?!!
もしかして心配かけ過ぎちゃったから?
私が驚いたようにルルクさんを見上げると、面白そうに目を細める。
「‥頼むから、今後は何も起こすな」
「うう、私だって起こしたくて起こしてる訳じゃないのに‥」
そう言いつつ、キッチンへ行くとお鍋に美味しそうなスープが入っているのが見えて、パッと顔を輝かせる。
「美味しそう〜!」
「そりゃ良かった。パンを切っておくからスープを食べられるだけよそってくれ」
「はーい」
ウキウキした気分で棚からお皿を取り出して、スープをよそって私とルルクさんの分をテーブルに持っていく。スープの中には綺麗に切られた鳥のお肉。‥うん、大丈夫。これは私の首ではない。そう思うのに首がヒンヤリする‥。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです。美味しそうだなぁって思っただけです」
全力で誤魔化して、スープを早速一口飲むと、体がほんわかと温かくなる。
「美味しい‥。沁みる‥」
「どんな感想だよ」
「いや心にも体にも染み渡るって意味ですよ。お代わりしちゃお〜」
「あんまり食べ過ぎると、夕飯食べられなくなるぞ。お祝いするって言ってたろ」
「へ?」
「忘れたのか?「呪い」を解いたら、祝杯をあげるって言ってたろ」
ルルクさんがジトーッと私を見つめた。
そういえばそんな約束してましたね!?私は誤魔化すようにパンを食べると、ルルクさんが小さく吹き出す。
「で、どうする?お祝いするか?」
「します。でも、お酒を飲んだら酔っ払っちゃうからなぁ‥」
「安心しろ、俺だけしか見てない」
「それが結構恥ずかしいんですが‥」
「十分恥ずかしいことをしたろ?」
ルルクさんにサラッと言われたけれど、それはあれですよね?
裸足を見せちゃった件のことを言ってますよね。
今度は私がジトッとルルクさんを見つめると、それはそれは楽しそうにルルクさんが私を見て笑う。‥本当に、絶対からかって楽しんでいるよ、この暗殺者。
「じゃあ、もし恥ずかしいことを言ったり、してたら、その、ちゃんと忘れて下さいね」
「善処する」
「あ、ちょっと!ちゃんと約束して下さいよ!」
「わかったわかった」
「もう!絶対ですよ」
唇を尖らせつつ、パンをもう一つ入れてあった小さな籠から取る。
‥うん、綺麗に切られているなぁ。
「そういえば、ルルクさん私のせいで「湖の夜明け」は中止になっちゃったけれど、ギルドはどうするんですか?」
「ああ、ダゴルの街の警備隊と、もしかしたら騎士団も視察に来るらしいから、その案内と説明だな。貴族の治療をしてた奴が誘拐されたとあって、流石に警備隊だけでは貴族達も納得しないだろ」
そ、そうなのか‥。
ちょっと前まで貴族だったけど、資金繰りで必死だった我が家からしてみれば遠い国の話みたいだ。でも、確かにここの所、魔物が出たりしてるし、ここでしっかり視察してもらえば安心だよね。
「ちなみにその間、ルルクさんもお仕事ですか?」
「しない」
「え!?」
「‥お前、誘拐されたからな?」
「‥申し訳ありません」
「しばらく一人で外出は禁止だからな」
「そんな!!ここは平和‥ではないな」
私の言葉にルルクさんは静かに頷き、
「お前の手に、幾つも蝶を描いても足りないな」
なんて言うから私は思わず自分の手の甲を見て、遠くを見つめた。
‥だって、よくわからないけど色々起こすのは私のせい、じゃないよね‥?




