恋愛ゲームの主人公と定住希望者。
シヴォンさんの魔術の力が戻った!
皆、飛び上がるように喜んで、執事長さんなんて大号泣していた。
タリクさんはシヴォンさんの手首を何度も見て、あの文字を探そうとするので私は気が気じゃなかったけど‥。
た、頼む〜〜!文字については突っ込まないでくれ!!
恋愛ゲームの主人公がまさか同じ日本語を書ける‥なんてバレたら、これストーリーどうなっちゃうの?あ、いや、すでに破綻してたっけ。
タリクさんが、シヴォンさんの腕をそっとテーブルの上に置いて、
「やはり、先ほどの文字は見当たらないですね‥」
「そうか。でも、魔術は使えるし問題はないだろ」
「いいえ!魔術が使えるとあれば王都まで戻るべきです!」
「は?嫌だ。俺は、ここに住む」
「「「「え!?」」」」
私とタリクさん、アレスさん、執事長さんの声が重なり、私の横にいたルルクさんは小さく舌打ちしたけど‥、ええと、ルルクさんはなんで舌打ち???ともかくここに住むというシヴォンさんに驚いて、皆で目を丸くする。
「‥ずっと考えてたんだ。魔術が使えなかったら、魔道具を作る仕事をするか、魔術に関する書物を書くかって‥。でも、また魔術が使えるならば、王都でなく地方でこそ魔術を使えるように教育する仕事もいいかもしれないって‥。ここのギルドには、魔術師はいるがそれでも数は少ないんだろ?」
シヴォンさんに言われて、頷いた。
それはそうだ。魔術を習うにはお金が掛かる。魔力を持っていても、使い方を知らない子が多くいるのは確かだ。それをまさか期待の魔術師が教えてくれるとなれば、地方からもっとすごい魔術師が生まれても不思議じゃない。
と、タリクさんが目を潤ませ‥、
「‥あんなに、魔術のことしか考えられなかったシヴォンが!!人の為に働こうと!!使命を持って魔術師を育てようとするなんて‥!!!」
「魔術のことしか‥?」
思わず私が聞くと、シヴォンさんが慌てて「そんなことはないぞ!」って、顔を赤くして否定したけれど、タリクさんの背中を撫でつつ、冷静にアレスさんが「概ねその通りだ」って突っ込んだけど‥。仲がいいのかな?
シヴォンさんはタリクさんとアレスさんをジロッと睨んで、
「とにかく!俺はここに定住する。ただ、準備もしたいから一度王都へは戻るが、それ以降は戻るつもりはない」
「シヴォンさん‥。そんなに真剣に考えていたんですね」
大変な状況だったのに、そんな風に考えていたなんてすごいなぁって感心していると、シヴォンさんが私を真っ直ぐに見つめる。
「ま、まぁな!そ、それに、ほら、ここには、ゆ、ユキさ‥」
「ああーーー!!!そうだ、うっかりしてました!さっきの白い魔石と魔物虫ですが、もしかしたら「呪い」にも効果があるのかもしれません!」
「は、ちょ、タリク?!」
「そうですね。あの魔物虫に噛まれた為とはいえ、あのようになるなんてまさか誰も想像していませんでした。これはシヴォンにも協力してもらって、白い魔石と魔物虫についても研究せねばなりません」
「な、なんでアレスまで‥」
タリクさんとアレスさんはにっこりシヴォンさんに笑いかけ、
「こうしてはいられません。さ、シヴォン、早速魔物虫に噛まれた時の状況をもう一度詳しく、丁寧に教えて下さい!」
「ああ、僕は誘拐犯に心当たりがないかも知りたいですね。物騒だと王族の管理するはずの別荘地でのバカンスにお菓子を買い求めにいらっしゃるお客様も怖がってしまいますし‥」
「「ですので、魔術が戻ったお祝いは今度に致しましょう」」
二人が私とルルクさんを見て、一息で言ったのをどう断れよう。
とりあえずコクコクと頷いておいた。
まぁ、確かにお祝い云々は昨日のこともあるから、落ち着いてからの方がきっといいもんね。
「では、落ち着いたらお祝いしましょうね!その時には、湖で皆でお祝いなんていいですね!」
私が提案すると、タリクさんとアレスさんはにっこりと頷き、シヴォンさんは口をアワアワさせつつ最後には「‥そ、それでもいいけど」と言い、ルルクさんを見上げると眉間に皺を寄せつつ頷いてくれた。
‥えーと、もしかしてルルクさん湖でピクニックは嫌だったのかな?
私が溺れかけたし‥。
 




