恋愛ゲームの人物と過去。
美味しい夕食を完食し、お皿は私がルルクさんの分も洗う。
だって作って貰ったのに、何もしないとか無理でしょ。
お皿を洗い終えてから、お茶を淹れてルルクさんにカップを手渡す。
「あの、一応家の決まりごとを決めておきません?」
「決まりごと?」
「洗濯とか、お風呂に入る時間とか?」
「ああ‥、そっちか」
「他に何かあるんですか?」
「‥‥いや、ない」
じゃあなんだその間は。
ひとまず洗濯は一緒にするけど、下着はそれぞれで。お風呂は私が先で、ルルクさんが後。リビングの隣にある私の部屋へは原則侵入禁止。といっても、扉に『悪意ある者、侵入不可』って防御用の紋様と一緒に書いてあるから入れないと思うけど。
ソファーで寝るには流石にきついと思うので、仕舞っておいたオットマンを出してルルクさんの長い足をカバーして貰うことにしたけど、この世界にソファーベッドってあるかなぁ。あれば用意しておきたい‥って、それじゃあいよいよ長きに渡って雇用延長の運びになりそうだし‥、でも睡眠も大事だしなぁ。
そんなことを考えつつ、決めたことを紙に書き込んでいく。
「よし、まぁ一緒に生活していって、適宜に色々すり合わせしていきましょう」
「‥お前はもう少し警戒心をその間に育てておけ」
「お前じゃありませーん!あ、そうだ、早速すり合わせ!ちゃんと名前で呼ぶこと!これ決定です〜〜」
ふふん!
一応私は雇用主になったから、嫌とは言わせないぞ?
さっきトニーさんと一緒にいる時、私の名前を呼んだんだから、ちゃんと覚えているのはわかってるしね。私がニマニマしながらルルクさんを見上げると、ルルクさんは呆れたように私を見て、
「‥その気になったらな」
「ええ!ずるくないですか?私はちゃんとルルクさんって呼んでるのに」
口を尖らせて不満を訴えるも、ルルクさんはお茶を飲んで我関せずな顔だ。
全く‥雇用主の意向を少しは汲んでくれ。
「明日は何時に家を出るんだ?」
「今日と同じですけど‥、ルルクさんまだ怪我しているんだから、大丈夫ですよ。明日は警戒心最大にして帰りますし」
「‥明日、どうにかなりたいのか?」
「だぁああ!!思い出さないようにしてるんですから、もう言わないでくださいよ」
「‥怖かったんだろ」
ルルクさんが静かに私を見つめて、飲んでいたカップをそっとテーブルに置いた。
「‥そ、れは、まぁ」
「今後は大丈夫だ」
低い声が私の顔を上げさせた。
コバルトブルーと、長い方の前髪の間から緑の瞳が私をじっと見つめ、
「怪我は、無理しなければ問題ない。それよりも怖い気持ちで出かける事の方がよくないだろう。仕事に差し支える。俺とギルドに行ってマスターに相談しておけ」
「あ、そ、そっか‥」
確かに、その方が安心だ。
私はコクコクと頷くと、ルルクさんは「風呂、お前が先なんだろ」と言ってまたお茶を静かに飲んだ。どうやら送り迎えは決定らしい‥。いいのかなぁ、怪我結構酷かった人に送り迎えさせちゃって。そうは思うけど、怖かったのは確かだし、レトさんに相談するのは大切だ。
「‥えっと、とりあえず先にお風呂入っちゃいますね」
「ごゆっくり」
ルルクさんはそう言って立ち上がると、ソファーにごろっと寝転がる。
‥まだ怠いのかなぁ。大丈夫かな。気になるけど、明日もあるし‥と立ち上がってカップを洗ってから、お風呂に入った。
「‥そういえば、どこから来たとか、前職何してたとか、聞いておくべきだったかな?」
湯船の中で思い出して呟いたけど、まぁいっか。
どんな人にも色々な人生があって、聞かれたくないこともあるだろう。
だってそれは私も同じだから。
いつまで私は追われて、いつになったら落ち着いて生きていけるんだろう。
恋愛ゲームのシナリオを作った奴がもし現れたら、絶対ぶん殴ってやる!!そう思いつつ、お風呂から上がった。
そうして、翌朝。
眠たいを擦りながらリビングへ行くとシンと静まり返っている。
「え、」
ソファーを見ると、ルルクさんがいない!
もしかして、出ていった‥?
約束、したのに‥。
出ていってくれないかなぁって思ってたくせに、いきなり姿が見えなくなって、私はどこか呆然とした気持ちでリビングに立っていると、玄関の扉が突然開いた。
「なんだ、もう起きたのか」
「ルルク、さん?」
「‥鳥を狩ってきた。夕飯に使う」
そう言って、手には頭のない鳥を持っていて‥、瞬間、
私の叫び声が家中に木霊したのは言うまでもない。ないよね?!!