恋愛ゲームの主人公、願いと呪い。
シヴォンさんに紋様を描いたけれど、反動で体調が悪くならなかったので内心ホッとした。
毎回倒れたら、シヴォンさん絶対気に病むだろうしね。
執事長さんが用意してくれた温かいお茶と美味しそうなお菓子を食べて、元気回復!である。と、カップを持っている手に描かれた蝶が目に入る。
ルルクさんが描いてくれた蝶。
もしかしてやっぱりルルクさんのご利益あったのかもしれない。
手の甲の蝶を見て、じんわりと胸の中が暖かくなって‥、また何かあればお願いしようって思っていると、シヴォンさんが庭をチラリと見る。
「‥うちの庭に紋様で使える植物がいくつかあるんだ」
「え?そんな素敵なお庭の植物を頂けませんよ」
「それぐらいさせてくれ。ただでさえ白い魔石なんて貴重なもので紋様を描いて貰っているんだ」
「シヴォンさん‥」
まだ全然「呪い」が解けてないのに優しすぎないかい?
眉を下げて微笑むと、シヴォンさんが慌てて顔を横に逸らし「うちは、曲がりなりにも魔術師の家系だし!使えるかなって思っただけだ!」って言うけれど、うんうんツンデレも出てきていい調子だね。
お茶を飲んで、約束通り屋敷の中庭にある大きな庭園へ向かったけど‥、
「広い‥」
「まぁ、土地はあるしな」
「土地の問題かなぁ‥」
「ああ、そこの植物は紋様で使えるそうだが、どうだ?」
「え、シヴォンさんよく知ってますね」
「‥多少、調べただけだ」
多少調べたって‥、ものすごい種類があるのに覚えてくれたの?
そうだよな、ゲームで学園にいた時も魔術に関する事なら貪欲に勉強して、魔術に役立てようとしてたっけ。魔術師として恥じないように‥なんて言ってさ。ツンデレなくせに真面目な性格が結構ゲームをしている人にとっては堪らない魅力になっていたっけ。
それは今でも変わらないんだなぁって思うと、私の知らない3年間も頑張ってきたんだなぁって感慨深くなる。
「シヴォンさんは本当に努力家ですね」
「な、なんだ突然!」
「いや、この植物を覚えるの私は結構苦労しまして‥。自分が大変な時なのに紋様に関することを調べて覚えてくれたんですよね?簡単にできることじゃないですよ」
にこーっと笑って話すと、シヴォンさんは目を逸らして「それくらいどうってことは‥」って言うけど、そこは誇っていいと思うよ。
「‥できてたことができなくなるって、本当に辛いです。諦めないのも、向き合っていくっていう姿勢も勇気が要ると思うんです」
私の言葉にシヴォンさんが顔をこちらに向ける。
「‥歩くのも、立ち止まるのも、辞めるのも、どれも勇気が要るけれど、どの選択をしても笑顔でいてくれたらいいなぁって私は思ってます」
「‥笑顔」
「あ、泣いてもいいんですよ?でも泣いた後、笑顔になったらいいなぁ〜って。これは私の勝手な思いですけど」
できればまた魔術が使えるようになって欲しい。
でも、どうなるかわからないから‥、それならせめて笑顔になって欲しい。
これは完全に勝手な私の願いだ。辛い人に笑顔でいられるように‥なんて、それは間違えると「呪い」になってしまう。
シヴォンさんは優しく目を細め、
「‥まだ、気持ちの整理はついていないけれど、要所要所でユキさんの言葉を思い出すと思います」
「え?」
私の言葉を?
目を丸くした途端、花の間から虫がピョンと飛び出して、シヴォンさんの肩に乗っかった。
「あ、虫」
「わぁああああああ!!!」
「シヴォンさん、もしかして虫ダメですか?」
「ちょ、ちょ、ちょっと無理です!!!!」
「ああ、じゃあすぐ取りますから、動かないで下さいね」
そっと指を構えてシヴォンさんに近付いた途端、ルルクさんが大きな手で虫を彼方に吹っ飛ばした。
‥‥なんか風圧出てなかった?
シヴォンさんの横に立っているルルクさんを見上げると、眉に皺を寄せ、
「‥虫ならすぐに始末するから安心して散歩しろ」
というので、大変暗殺者だなって思った。
いや、ただ虫を払ってくれたんだけど、なんでルルクさんがいうとこうも気迫迫るものがあるんだろう。‥とりあえず、静かに頷いておいた。




