恋愛ゲームの主人公、思考の海で考える。
どうやらルルクさんは、湖の夜明けのイベントの警備を任せられたらしい。
うん、私の横で話しているから、問答無用で聞こえる。
あとまだ手はまだ繋がれている。
‥でもなんだろう、これって普通はドキドキイベントなのにすぐに何かをやらかすお子さんを抑えておこうってお母さんの感じがするんだ?一切甘酸っぱい空気を感じない‥。窓の外を見つめ、天国のお父様、お母様、ユキは完全に子供扱いされております‥と報告しておいた。
「と、いう訳で夜はこの時間だけでも警備の手伝いを頼む!」
「‥‥だが、」
「その時間ユキも連れてくればいいだろ?なぁ、ユキも湖の夜明け見たいだろ?」
「え?あ、でもルルクさん大変じゃあ‥」
「それは大丈夫だ」
「そうなんですか?じゃあ、ルルクさんと行こうかな」
私の言葉に遠くで見ていた剣士さんと魔術師さん達がため息を吐いて「最強がいる!」「最強が強すぎる!」って言っていた。確かにルルクさんは最強だな。思わず頷いていると、ルルクさんが私をじとっと見て、
「湖に落ちるなよ」
「落ちませんってば!ちょっと片足くらいは突っ込むかもしれないけど」
そう答えた私をルルクさんがなんとも言えない顔をしてから、レトさんと話はついたとばかりに簡単に挨拶をすると、私の手を握ったままギルドの外へ行こうとする。ちょ、ちょっと待て!一旦、手を離そうか?恥ずかしいんですけど!?
ギュッとルルクさんの手を引っ張ると、ルルクさんが足を止めてまじまじと私を見つめた。
「‥いつの間に手を繋いでたんだ?」
「ルルクさんが繋いだんですけど?」
え、無自覚で手を繋いでたの?
そっちに驚いて、目を丸くしているルルクさんに吹き出した。
「もしかして私の手って落ち着く作用があるんですかね?」
「‥‥そうかもな」
「え?!そうなんですか?」
ちょっと恥ずかしいけれど、落ち着くと言われると嬉しいとか‥。
ああ、いかん。感情の蓋よ今日も落ち着きたまえ。自分で蒔いた種だけど落ち着くのだ。
ルルクさんが眉を下げて笑うと、
「‥高台まではこれで行くか?」
そういって繋いだ手をちょっとだけ上げた。
そ、そういう風に聞いちゃう??それはちょっと断りづらいというか‥と、思っていると先ほど湖へ誘ってくれた剣士さんと魔術師さんがこちらをチラチラと見ている。
‥恋愛フラグは立てない。
壊していくと決めている私は、一も二もなく頷いた。
命大事に!恋せず乙女!!
頷いた私をルルクさんがふっと笑って、そのまま手を繋いだままギルドを出た。
めちゃくちゃ恥ずかしかったけれど、恋愛フラグは回避したいんだ。あと誘うならもっと安全安心な子がいいと思う。私だと死亡ルートもあり得るし。
‥って、そう考えると私って相当危険な存在なのでは?
私に好意を寄せたら、死亡ルートがやってくるって事じゃない?
手を繋いだまま歩くルルクさんを、視線だけ動かして見つめる。
大きな肩から長い髪がサラッと流れて、お日様に当たると濃い茶色の髪が栗色にも見える。綺麗な鼻筋も、形の良い唇も綺麗なだなぁってしみじみ思う。‥そんな人が私を好き、なんてあり得ないし、きっと大丈夫だよね?死亡ルートに巻き込まれるなんて、ないよね?
今のところ、私がほぼサラマンダーに襲われそうになったとか、粉塵爆発を起こしたとか、主に死にそうになったのは私だし、きっと大丈夫だろう!ってことは、微塵も恋愛フラグが立ってないって事だけど。‥どこか心の奥底でそれはそれでちょっと‥って声も聞こえるけれど、自分だけならまだしも人様を巻き込んではダメだと言い聞かせる。
「‥ユキ?」
「へ、あ、はい?」
「思考の海から戻ってこい。ベンチに着いたぞ」
「あれ?!いつの間に‥」
「お前が思考の海で泳いでる間だな」
「すみません‥。思ったより潜ってたみたいです」
私の言葉にルルクさんが可笑しそうに笑って、ベンチに座るとお弁当の包みを手渡してくれた。
「溺れてないなら、いい」
「‥流石に溺れませんよ?思考の海は潜ったり泳いだりしてますけど」
「湖でも是非そうであってくれ」
「ルルクさん、実は相当心配してます?」
お弁当の包みを開きつつルルクさんにそう聞くと、真顔になって、
「‥あれだけ色々やらかせばそうなる」
というので、私は無言でサンドイッチにかぶりついた。
‥ええと、その節はすみません?




