恋愛ゲームの主人公、フラグを立てず。
翌朝起きると、ルルクさんはギルドの皆と見回りに行ったのだろう。
すでに家にいなかったけれど、テーブルの上にメモ紙があって、
『帰るまで外出するな。危険』
と、書いてあった。
‥ルルクさん、私は3年間一人でたくましく生きてきたんだ。安心してくれ。
そうはいっても言う事を聞かないと、暗殺者に睨まれ、怒られるのは目に見えている。流石に何度も失敗して学んでいる私は最強である。
「でも、それなら朝食を作っておこうかな!」
ルルクさんがすぐに作ってくれるけれど、流石に甘えっぱなしも申し訳ないし。
キッチンへ行って、冷蔵庫周りを見るといつの間にかルルクさん仕様になっていて、調味料が高い場所に置いてある‥。くそ!届かない!椅子を持ってきて、棚の上に置いてある塩の壺を取ろうとすると、コロッと魔物虫が落ちてきて思わず悲鳴を上げた。
「な、なんで家の中までいるの〜〜〜???」
と、まじまじと見ると固まって動いていない。
もしかして死んでる‥?
ツンツンと指で突いてみると、緑から真っ白な色になりかけている。魔物虫って死ぬと白くなるのか‥。そう思いつつキッチンに虫がいるのは大変心臓によろしくないので、窓を開けて外へぽいっと投げた。よし!これで心置きなく目玉焼きを焼ける!
そう思って振り返ったら、ルルクさんが頭のない鳥を二羽手に持っていた。
叫んだよ朝イチで。
なんで!首が!ない状態で持って帰ってくるんだよぉおおおお!!!
「‥もう起きてたのか」
「いや、それ開口一番言う事ですか!??」
「実験も兼ねて狩りをしてきたんだ。動きはいつもよりやはり紋様を描いてあるといいな」
「あ、な、なるほど‥。他に何か効果はありました?」
「‥まだ、見つかってない」
「まぁそりゃそうですよね。徐々に見つけていきましょう。とりあえず私は料理の腕を向上って描いたんで、目玉焼きを焼いてみます!」
にこーっと笑ってルルクさんを見上げると、ルルクさんは真顔で「やめておけ」って言った。‥私、恋愛ゲームの主人公ぞ?紋様師ぞ?
しかし今やキッチンの主でもある暗殺者のルルクさんに可及的かつ速やかにキッチンから追い出され、静かに台拭きでテーブルを拭いた‥。おかしい、やっぱりこれ絶対恋愛ゲームじゃないと思う。遠くを見つめながら静かにテーブルに座っていると、美しい目玉焼きと美味しそうな厚切りハム、温野菜を添えたプレートが出てきて‥。
「どんどんルルクさんの腕が上がってきてる」
「そうか?」
「‥どうしよう、私はもう料理の仕方を思い出せるかな‥」
厚切りのハムを噛み締めながら呟くと、ルルクさんが小さく吹き出した。
いや、本当に笑ってる場合じゃないからね?
それでも美味しい朝食を食べると、私の機嫌はすぐに上向きになってしまうのだから、自分の事といえど本当にお気楽だと思ってしまう。
ルルクさんとギルドに行くと、今日はお客さんもそこそこ‥といった様子だ。
「そういえばタリクさんも帰ってきたかなぁ‥」
「あいつは帰ってきたら、一番にお前の所へ来るだろ」
「ええ〜〜?それはないでしょ。あ、でも紋様を描いて下さいとは言いそうですね」
「‥‥そうだな」
呆れたような顔で私をチラッと見て歩いていくルルクさん。
なんだ?何か言いたい事があるのか?
と、ザワザワと声がしたかと思うと、玄関からレトさん達が外へ行っていたのか何やら色々抱えて入ってきた。
「おう!二人とも今日もお疲れさん」
「おはようございます。何かあったんですか?」
「ああ、祭りが終わったらそろそろ湖だろ?」
「あ、そういえば‥「湖の夜明け」でしたね。」
私とレトさんの会話にルルクさんが首を傾げる。
あ、そうだよね。ルルクさんはまだ来たばっかりだから知らなかったんだっけ。
「あのですね、祭りを終えて少しすると湖の底の植物が一日中発光するんです」
「発光?」
「よくわかってないんですけど、大体一週間くらい発光して、夜でも全体的に淡く光るものだから、貴族達がそれを目当てに夜にボートに乗ってその光景を楽しむんです」
私の言葉にルルクさんが目を丸くすると、向かいでウンウンとレトさんが頷いた。
「でも、朝の見回りでルルクが魔物虫が多いって話してたからよ、ちょっとギルドの奴らと草刈りもあるし下見してきたんだ。ありゃー、ちょっと多いなぁ。集まると面倒だが、草刈りすれば多少は減るだろ」
「魔物虫‥」
朝、我が家のキッチンにいたあいつか。
前世にいた黒いやつに形状が似てなくて良かったけど、昨日に続き今日も出くわした私としては、大変複雑だ。思わず口をへの字にするとルルクさんが面白そうに笑った。




