恋愛ゲームの主人公、無理ゲー。
ひとまず白い魔石で紋様液を作って、ひたすら自分とルルクさんの腕に紋様を腕に描く。筋力アップ、守備力向上、脚力向上、腕力向上、商売繁盛、家内安全、必勝祈願、先手必勝、火気厳禁‥うん、後半は完全に違うな。
ルルクさんの両腕に蝶や花と一緒に紋様をこれでもかと描き終えると、文字達が金色に淡く光るとすっと消えた。
「‥これで、何か変化があるといいんですけど」
「明日、見回りに行くしついでに剣の練習もするから試してみる」
「結局ルルクさんにお願いしてばかりですみません‥」
「‥俺としては、紋様なんて有り難いもんだけどな」
「そういえば以前、描いたことないって‥」
「‥正確には描いて貰えなかった、からな」
そっと腕を撫でるルルクさんの言葉を聞いて、目を見開く。
そうか‥、ルルクさんは魔族のハーフだ。
どこから来たかは詳しく聞いてないけれど、私の国でも魔族のハーフと聞いて「怖い存在」だとトニーさんは判断していたくらいだから、あまり良い待遇をされていなかったのかもしれない。‥あんなに強い戦士なのに。
そう思うと、胸がぎゅっと苦しくなった。
だから私が腕に紋様を描いたのを見て、ルルクさんは最初に驚いていたんだ。自分なんかに描いて‥って顔をしていたのを思い出して、私は思わずルルクさんの手に自分の手をそっと重ねた。
「‥ユキ?」
「一杯描きます!ルルクさんの為に一杯描きます」
そんな悲しい顔をさせない為に。
そんな寂しい想いをさせない為に。
私の真剣な顔にルルクさんがふっと笑う。
「‥そうだな。お前はそう言うよな」
「え、他に何か?」
「いいや、お前は俺が魔物になっても描きそうだなって」
「描きますよ、そりゃ。ルルクさんはルルクさんですし。でも待って?魔物になるんですか?ハーフでもそんな特殊能力あるんですか?」
もしかして私は首を切られるルートじゃなくて、魔物にやられるルートだったのか?思わず聞くと、ルルクさんがぶっと吹き出した。
「あ!!もしかしてまたからかいました!??」
「‥特殊能力って‥」
「いや、そんなこと言うから変身できるのかなぁ?とか、それってちょっと格好いいなぁとか‥」
「‥格好いいって、お前、本当にこの世界の人間か?」
「へ」
ルルクさんが可笑しそうに笑って言った一言に、思わずギクリとする。
確信突いてくるな、暗殺者‥。私の顔を見て、ルルクさんが不意に顔を上げ、
「‥まあ、お前がこの世界の住人じゃなくてもどうでもいいがな」
「そ、そうですか‥」
思わずホッとする私にルルクさんが肩肘をついて、私をまじまじと見つめる。
「‥蝶を描いてくれるのがお前なら、それでいい」
そう言って、優しく笑ったので私の感情の蓋がびっくりするぐらい飛び上がって、私は慌ててそれを押し留めた。ダメーーー!!絶対出てきちゃダメーーー!!!どうにかこうにか荒れ狂う私の心の中を最早天の岩戸のような大きな岩を蓋に乗せた。
小さく息を吸って、
「‥‥精進、します」
なんとか絞り出すように言葉にすると、ルルクさんが頷いて「そろそろ寝るか」と言って席を立ったけれど‥、私の顔はいま一体どんなことになっているんだろう。赤くなってないといいな、バレてないといいな。
急いで私はテーブルに広げた本や、紋様液を片付けて、自分の部屋に駆け込んだ。
このままリビングにルルクさんと一緒にいたらまずい気がする。
絶対フラグ以前にまずい気がする。
チェストの上に本や紋様液を置いて、ゴロッとベッドに寝転がる。
「‥もう、これからどうやって生きていけばいいんだ‥」
感情の蓋を、どうやっても押し留められない自分がいて、でもその気持ちを洗い流すことも、見ないふりをするのも苦しい。でも私の気持ちがバレたら、恋愛フラグが立ってしまったらルルクさんが危険な目に合うかもしれないし、私も死亡フラグが立つかもしれない。
「恋愛ゲームなのに無理ゲーじゃない?」
ベッドから顔を横に動かすと、チェストの前にある鏡に私が紛れもなく赤い顔で映っていて‥、現実逃避をしたい主人公である私はシーツに顔を突っ伏して忘れることにした‥。
気がついたら100話を超えておりまして‥、そんな長い話にするつもりはなかった‥んですが、いつものごとく長いです。それなのに毎回読んで頂いて、いいねまで頂いて、ブクマまで‥。幸せに!!幸せにしかなりませんように!!




