夏の終わり 【月夜譚No.208】
ふとカレンダーを見て、淋しさを覚える。
もう社会人になって数年。夏休みなんてお盆休みくらいしかないし、終わっていない宿題に追われることもない。暑くても毎日会社に出勤して、冷房の効いたオフィスでパソコンのキーを叩く。
けれど、やはり八月の終わりだと思うと、物悲しい気持ちがするのだ。
勿論、学生の頃の方が淋しさは大きかった。学校に行かずに毎日遊んでいられる一ヶ月と少しの期間は、まるで夢みたいな時間だった。それももう残り一週間ともなれば、夏の終わりと共に心に秋のような風が吹くのだ。
夏から秋へと季節が移り変わるこの時期は、何はなくとも淋しいのだ。蜩の声を聞いただけで、目の前を横切る蜻蛉を見かけただけで、何処かぽっかりとした気持ちになる。
今年もまた、夏が終わる。暑かった毎日が嘘のように、気温も下がっていく。
しかしまた一年経てば、夏は再びやってくる。それを待ちながら他の季節を過ごすのも、まあ悪くはないだろう。
彼はいい加減カレンダーから目を逸らして、デスクの前に戻った。