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円環の聖女と黒の秘密  作者: 藤瀬京祥
二章 クラカライン屋敷
98/110

95 アーガンの安堵とミラーカの疑問

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

「公子様、失礼いたします」


 アーガンの膝を枕に、静かな寝息を立て始めたノエルを寝台に運ぼうとするニーナがアーガンに声を掛けると、アーガンはニーナに、もう一方の膝に預かっていたももちゃんを差し出しながら言う。


「いや、わたしが運ぼう」


 アーガンがノエルを運ぶから、代わりにももちゃんを預かってもらおうとしたのである。


「そのような……」

「大丈夫だ」


 遠慮するニーナと、そんな短いやり取りをしながらアーガンは気づく。


(なるほど、筆頭殿たちがおられたのはそういうことか)


 ノエルは五、六歳くらいの幼い姿をしている上、見た目以上に軽い。

 それでもやはり、女性が抱え上げるのにはもう大きいし、重い。

 だから彼らがいたのである。

 もちろん暇潰しも兼ねているだろうし、ノエルの周りで起こる魔術的な変化を観察したいというのもあるだろう。

 それにきっと護衛も兼ねている。

 彼らが自主的にしているとは考えられないから、主人かマディンに命じられてのことだとは思われるが……そんなことを考えながら、アーガンはノエルを抱え上げながらゆっくりと立ち上がる。


 再会した時にも思ったが、やはりまだまだ細く軽い。

 背を支える手にも細い骨の感触がはっきりとわかる。

 それでも突然寄せてきた頬には子どもらしい柔らかさがあり、あれほど荒れていた肌もずいぶん綺麗になっていた。

 それこそアーガンたちでは到底手に負えなかった髪も綺麗に整えられ、ずいぶん滑らかになり、艶も出てきた。


 もちろん 「クラカライン家の姫」 という本来のノエルの姿にはまだまだ遠いけれど、それでも十分すぎるほどの変化である。

 なによりノエルが嬉しそうに笑うのがアーガンには嬉しかった。


 ノエルを寝台に横たえたアーガンは、預けたももちゃんを抱えてついてきたニーナとアスリンにあとを任せ、自身は居室に戻る。

 そして元の席にすわろうとして、ももちゃんだけでなくしろちゃんたちもいなくなっていることに気がつく。

 どうやらニーナとアスリンで手分けして四体とも持っていったらしい。


「ああ、あの子たちはいつも姫様と一緒にお休みするのです」


 ノエルの相手をするのが役目であって、世話は範疇外のミラーカは、戻ってきた弟の様子に気付いて説明する。

 本当はいつも全員連れて回りたいほど可愛がっているのだとも話すと、アーガンは 「そうなのですか」 と素っ気ない返事をしたものの、ソファに掛け直して一呼吸ほど吐くと 「その……」 と言葉を継ぐ。


「思っていた以上に落ち着いておられて安心しました」

「そう?」

「わたしたちが初めてお会いした時は、その、今となっては思い出したくもないほど酷いご様子だったので」

「そういえばそうだったわね」


 ミラーカも、自身が初めて会った日のノエルの姿を思い出したらしい。

 だがそれはアーガンたちが旅の途中で世話をして少しばかりだがましになった姿であって、アーガンが初めて会った時のノエルは本当に酷い有り様だった。

 まだまだ暑さが残る中、灯りも窓もない納屋に、わずかな水しか与えられず閉じ込められていたのである。

 もちろんそれを今更姉に話して聞かせるつもりはないアーガンは、ぎこちなく話題を変える。


「そういえば、閣下にも驚きました」

「あら、なにかしら?」

「ですから、あのぬいぐるみを買い与えたのが閣下だということに、です」


 すぐ弟の言わんとしていることに気づいたミラーカは急に怒り出す。


「違いますわ!

 だってあれは、元々わたくしが考えたことですのよ!」


 感情的になったミラーカは、少し早口にセイジェルがノエルにぬいぐるみを買い与えるに至った経緯を弟に話して聞かせ、最後はセイジェルを手柄泥棒に仕立て上げて締めくくる。

 子どもの頃からミラーカとセイジェルが不仲であることを知っているアーガンは、途中から苦笑を浮かべながら姉の話を聞いていた。


「人形というのは姉上らしいというか、女性らしい発想ですね。

 確かにわたしでは思いつきません」


 遊び道具と聞いて、アーガンなら軽いこども用の模擬剣を真っ先に思い浮かべるが、そもそも玩具を与えるという発想がなかった。

 その点はセイジェルも同じだったのではないだろうか?

 だからミラーカの失敗を見て、セイジェルが人形の代わりにぬいぐるみを与えることを考えたという姉の話は、アーガンには酷く意外だったのである。


「大きな声では言えませんが、わたしが知る閣下はそういう御方ではなかったので、正直、驚きました。

 しかもあのおっきい子たちでしたか?

 そんな悪戯心まで……」

「あれにはわたくしも驚きました。

 実際、閣下はそういう方ではございませんもの」

「姉上、お言葉が過ぎましょう」


 ノエルが、驚きながらも酷く喜んでいたことがさらに面白くないとぼやくミラーカに、アーガンは笑みを浮かべながらも姉を窘めると、「ですが」 と言葉を継ぐ。


「ずいぶん姫様を可愛がっておられるようで、安心しました」

「やはりそう思いまして?」

「そう思います」


 不満げな姉にそう応えたアーガンは、姉弟の会話を楽しげにきいているだけだったイエルに 「なぁ?」 と同意を求める。

 するとイエルは慌てることなく穏やかに答える。


「自分もそう思います」


 突然話を振られてもそつなく返せる。

 こういう順応力の高さはイエルの特性である。

 ミラーカが不満そうに 「そう」 と相槌を打ったところで、ノエルの着替えなどを終えたニーナとアスリンが居室に戻ってくる。

 するとミラーカはニーナを見て話し掛ける。


「ニーナ、申し訳ないのだけれど少し弟と二人で話をしたいの。

 別室でイエル殿にお茶をお出しして、あなた、話し相手をして差し上げて頂戴」


 客の従者に席を外させることは珍しくはない。

 その従者の相手を使用人にさせることも珍しくはない。

 普通ははじめから使用人の休憩室などに案内し、使用人たちがお茶や食事を振る舞うなどしてもてなすのだが、今回の場合、形式上は従者だがノエルにとってはイエルも客である。


 それこそファウストとも会いたかったかもしれないが、アーガンの立場では二人も三人も従者を伴うことは出来ない。

 だからと言ってイエルを正式な客と迎えるには身分が足りない。

 そこで従者という身分で同伴してきたわけで、同席もノエルが許可したという形式である。


 そのノエルは眠ってしまった。

 イエルが、ニーナの職場はおろか、仕事が決まったことすらまだ知らないことはミラーカも知っていたから、あえて兄妹二人きりにしてあげようと思って配慮したのだろう。

 しかもごく自然に。

 ここには自分の他にアスリンとジョアンもいるから手は足りているとまで言われ、最初は戸惑ったニーナだったが、すぐに気持ちを切り替える。

 ミラーカの配慮はとてもありがたかったし、兄とも話したかったからである。


 主人であるノエルはすっかり懐いてくれたが、それでもニーナがクラカライン屋敷に雇われてまだ間もない。

 休みはまだもらえないし、手紙を出せるようになるのももう少し先である。

 それこそいま兄と話さなければ、いつ報告出来るかわからない。


 そんな妹の事情はイエルもなんとなくわかったが、まずはアーガンに伺うことを忘れない。

 ノエルが席を外したこの場で一番の立場にあるのはミラーカだが、あくまで彼の上官はアーガンである。

 その上官の許可なく勝手なことは出来ないからである。


「大丈夫だ、ゆっくり話してこい」

「ありがとうございます」


 ミラーカにも断わりを入れて席を立ったイエルを、あくまでクラカライン屋敷の使用人として案内するニーナだったが、やはり嬉しさが口調にも声にも足取りにも現われていたが、部屋に残る姉弟は気づかない振りをして見送る。

 だがそんな穏やかな空気も、ニーナが扉を閉めた数秒後に一変する。

 唐突にアーガンが 「どういうことですか、姉上」 と、不信感も露わに切り出したからである。


 今の今までこの場にはイエルがいたし、厚いカーテンの向こう側の寝室にはニーナもいたから我慢していたのだろう。

 だがそれがあまりにも唐突だったため、ミラーカは呆気にとられる。


「どういうこと、とは?」

「ニーナ殿のことです。

 なぜクラカライン屋敷に?

 いつからこちらの屋敷で働き始めたのですか?

 そもそもどうしてニーナ殿がこちらのお屋敷で働くことになったのですか?

 それに……見たところ、姫の側仕えはニーナ殿お一人しかいないようですが……」


 騎士として騎士団の宿舎で生活するアーガンだが、姉の側仕えの顔くらいは覚えている。

 年配で勤続年数も長いジョアンはもちろん、若いアスリンも元々姉弟の母親システアの側仕えだから余計である。

 つまり紹介などされなくても二人が姉の側仕えであることは一目見てわかっていた。


 もちろんニーナ以外の側仕えがたまたま休暇を取っていたということもあるだろう。

 来客がある日に側仕えを休ませることはあまりないが、全くないわけではなく、たまたま訪問日と重なったのかもしれない。

 だが何人かいるうちの一人が休みならともかく、逆の状況、つまり一人を残して他の全員が休みを取るなんて明らかにおかしいことである。


 普通ならまずは休みをとらせないだろう。

 主人が幼いのをいいことに好き勝手をする使用人ももちろんいるが、ミラーカが許すはずがない。

 そもそもノエルを屋敷に迎え入れることを決めたのは、クラカライン家でありセイジェルである。

 それも数ヶ月前に。

 ノエルが九歳の子どもであることも知っていたはず。

 それなのに世話をする側仕えの一人も手配していなかったのかと尋ねるアーガンに、ミラーカは自分が知る限りのことを話して聞かせる。


 マディンはちゃんと三人の側仕えを用意していたこと。

 だが彼女たちは使用人頭(マディン)の目を盗み、ノエルのために用意されていた物を盗んでいたこと。

 さらには主人がなにもわからない、なにも出来ない子どもだと知ると侮り、自分たちの言いなりにするために脅したこと。

 三人がかりでノエルを冷たい水に沈めて暴力を振るったため、ノエルは今も湯が温かいこをと確認してからでなければ入浴出来ないことを、ミラーカは時に怒りを露わに、時に悔しさを滲ませながら弟に話して聞かせる。

 そして最後はそれら全てが露見したことを明かす。


 だがそれ以上は話さなかった。

 実際にミラーカはあの三人がどうなったかを知らない。

 盗みだけでも許されないというのに、よりによってあの三人はノエルに手を上げている。

 身一つで屋敷から追い出されるだけでは済まされないことは明らかである。

 もっと言えばどうなったか予想は付いている。

 それはここまでの話を聞いたアーガンも同じだったから、それ以上を話さない姉に訊こうとはしなかった。


「ではニーナ殿を雇うまで、姉上の側仕えが姫様のお世話を?」

「ええ。

 丁度ね、そんな時にお母様からニーナのことを伺って閣下にお願いしてみましたの。

 閣下にしてみれば、騎士の妹であれば、兄の立場を慮って迂闊なことはしないだろうとか、どうせそんな(こす)いことをお考えになったのでしょうけれど」

「それは……そうかもしれません」


 子どもの頃からセイジェルを知っているため、アーガンも 「そんなことはない」 とは言えなかった。

 少なくとも姉弟が知るセイジェル・クラカラインはそういう考え方をする人物なのである。


「まぁ閣下のお考えなどどうでもいいですわ。

 お母様がお気に召しただけあって、とても美しくて働き者で。

 わたくしも姫様もすっかり気に入っていてよ」

「それはよかった。

 イエルもニーナ殿のことをとても気に掛けていましたから、わたしとしても助かりました」

「ではわたくしに感謝なさい」

「ありがとうございます」


 鼻高々な姉と素直に礼を言う弟。

 そんなどこにでもいる姉に頭の上がらない姉弟関係を見ていたジョアンが、「お言葉でございますが」 と口を挟む。


「坊ちゃま、その感謝はお嬢様ではなく奥様になさるべきかと」

「ジョアン、いい加減その坊ちゃまというのはやめてほしいのだが……」


 アーガンは照れや恥ずかしさから情けない顔をするが、強く言えないのは幼い頃から世話になってきた恩があるからだろう。

 そこにミラーカが追い打ちを掛ける。


「せいぜい頑張って、ジョアンに一人前だと認めてもらうことですわ」

「姉上まで……」

「ところでアーガン、姫様は魔力をお持ちなのかしら?」


 今度はミラーカが唐突なことを言い出し、アーガンが呆気にとられる。


「魔力……でございますか」


 ノエルの存在は口外無用である。

 それはノエルを知っている人間の共通認識であり、彼らの主人である領主の絶対的な命令でもある。

 もちろんミラーカとアーガンのリンデルト姉弟でも共通の認識だが、魔力となれば話は別である。

 ミラーカはなにをどこまで知っているのか?

 わからないけれど、ノエルに魔力があるかどうかを疑問に思うなにかがあったのかもしれない。

 だがその 「なにか」 がアーガンにはわからない。


 逆にアーガンが知っているノエルの秘密は、真偽のわからない……いや、確かにノエルにはなんらかの能力があり、たった一晩でアーガンの腕の傷を治した。

 利き腕を失い騎士の廃業を覚悟するほどの傷をたった一晩で、治したのである。

 だが治癒の魔術など聞いたことがない。

 少なくともアーガンは聞いたことがない。

 このことを知っているアーガン自身は赤の魔術師だが、やはり知っているセルジュは白の魔術師である。

 そして二人の報告を聞いたセイジェルも白の魔術師だが、三人ともにそんな術には心当たりがない。

 そこで浮かび上がったのが、そもそもノエルは魔術師なのか? ……という疑問である。


 黒の魔術


 それがどんなものなのかはもちろん、そもそもあるのかさえわからない。

 だが魔術師の可能性を示唆する発言には心当たりがある。

 旅の途中、シルラスの荒野で 「みずのにおいがする」 という発言をしたノエルは、乾季の川に水が流れていることを教えてくれた。

 そして今朝の 「ひのにおい」 という発言である。


 ノエルの父クラウス・クラカラインは、五人いた兄弟の中で唯一の白の魔術師だった。

 それも強大な魔力を持つクラカライン家の魔術師である。

 そして弟のマーテル・マイエルは、魔術師になれるかどうかはわからないが、少なくとも赤の魔力を持っていた。

 それは赤の魔術師(アーガン)の前で焔の召喚をすることで証明してみせている。

 さらには従兄弟のハノンとラスンの兄弟も赤の魔力を持っているというから、マイエル家は赤の魔術師の家系なのかもしれない。


 つまりノエルには白と赤の魔術師の可能性があるのだが、実は青の魔術師の可能性もある。

 ノエルの曾祖母に当たる人物が青の領地(アスール)領主一族(ラディーヤ家)の出身で、青の魔術師だったからである。

 実際にノエルたちの叔母に当たるラクロワ卿夫人エルデリアが、その血を引く青の魔力の持ち主である。

 だが緑の魔力については……。


(そういえば筆頭殿たちが緑の魔術書がどうとか話しておられたような……)


 アーガンが考え込んでいる様子を見て、ミラーカは 「そう」 と溜息混じりに呟く。

 どうやら弟の思案する様子を勝手に解釈したらしい。

 どう解釈したかはわからないが、気を取り直すように話を切り替える。


「ではあなた、この部屋に緑の魔力を感じることは出来て?」

「緑?

 姉上、いったいなにを仰っているのですか?」


 先程以上に突飛もない姉の質問に、アーガンはさらに呆気にとられる。

 緑こそ、ノエルにはもっとも縁がない魔力だと考えていたところでもあったから余計である。


「その、改めて申し上げるのもなんですが、わたしは赤の魔術師でございます」

「存じておりましてよ。

 わたくしは白の魔術師ですわ」


 アーガンにそんな気は全くなかったのだが、ミラーカは馬鹿にされたような気がしたらしい。

 少しムッとした表情を見せる姉に、アーガンはさらに戸惑う。


「もちろん存じております。

 ですからわたしも姉上も緑の魔力など……」

「わかるはずありませんわよね」


 なにが姉の気分を害したのかわからないアーガンは、これ以上害さないように 「そうですね」 と無難に話を合わせる。

 だが実はミラーカの気分を害したのはアーガンではなかった。


「では質問を変えますわ」

「はぁ……」

「例えば……色違いの魔力を感じるような術に心当たりはなくて?」


 やはり姉の言わんとすることが理解出来ないアーガンだが、とりあえず問いには考えて答える。


「それは赤の魔術に、ということでしょうか?」

「ええ」

「その……姉上もご存じのことと思いますが、わたしも父上もあまり魔術には興味がございません」


 少し申し訳なさそうに言うアーガンだが、ミラーカはそんなことは百も承知だといわんばかりに返す。


「もちろんわかっています。

 ですからあなたの知る範囲でよろしくてよ」


 アーガンも父のリンデルト卿フラスグアも、赤の領地(ロホ)の名門貴族リンデルト卿家の血を引く強大な魔力を持つ赤の魔術師だが、親子は剣の道を選んだ。

 有事には魔術師として戦場に赴くのが貴族の務めであるため、二人とも魔術師としての修錬は十二分に積んでいるが、あくまでも二人は騎士の道を選んだのである。

 そしてそれは娘であり、姉でもあるミラーカも理解している。

 その上でアーガンの持つ赤の魔術についての知識を問うているのである。


「そういうことでしたら、わたしは存じ上げません」

「まぁ普通はそうよね」

「姉上、なにかあったのでしょうか?」


 そもそもここは白の領地(ブランカ)である。

 加護は白とわかっていて緑の加護について話し出したのだから、アーガンにはまるでミラーカの考えがわからない。

 しかし話の流れから推測して、どうもノエルが関係しているらしい。

 アーガンは少し口調を改めて姉に問い掛ける。

 すると珍しくミラーカが戸惑う。


「なにか……というか、その……この部屋に緑の魔力があるというのです、閣下が」

「閣下が?」


 いったいどういうことなのか? という顔をしたアーガンだったが、すぐに考えを改める。


「閣下がなぜそんなことを?

 そもそも閣下は白の魔術師ではございませんか。

 なぜ緑の魔力を?

 確かに今のクラカライン家は青の領主一族(ラディーヤ家)の血を汲んでおられますが、緑は全く……」


 全く入っていないはず。

 そう言い掛けたアーガンだったが、クラカライン家が白の領地(ブランカ)の領主として収まってからの歴史を全て知っているわけではない。

 フラスグアから始まったばかりの白の領地(ブランカ)のリンデルト卿家とは違い、名門と謳われる古くから続く貴族に闇はつきもの。

 ましてクラカライン家は 【四聖(しせい)の和合】 以前の、四つの領地が争っていた戦乱の時代から続く名門中の名門。

 その長い歴史の中で、緑の血が一滴も混ざっていないとは限らないのである。


「そなたの言いたいことはわかります」


 そう言ったミラーカは、少し前にあったこと……いや、現在進行形でこの部屋で起こっていることを話す。

 花瓶に生けられた花が異常なほど長く保つことに、ミラーカが気づいたことでわかったある可能性。

 そしてそれを聞いたアーガンは別の可能性に気づく。


「それは、ひょっとしてですが、共鳴感覚(センシティブ)に関係があるのではございませんか?」

【白の騎士団団長イグシア卿ジェルミンの呟き】


「アーガンはフラスグアの息子だからともかく、イエルまで呼び出されるとは……一体なにをしたのだ、あの二人は。

 そもそも閣下は日中、公邸で公務を執っておられるはず。

 だが二人が向かったのはお屋敷。

 閣下のおられぬクラカライン屋敷が、あの二人にどんな用があるというのだ」

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