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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死者と話せるラジオ

死者の声と会話をしてはいけない。話すとあの世に連れていかれてしまう。

 僕の手元に、昭和レトロなラジオがある。

 たまたま見つけたリサイクルショップで気になり、手に入れたものだ。


 深夜に自宅で適当にチューナーを合せていると、ラジオ局の周波数ではないところで


 ―ブチブチ……


 と、変な音が聴こえてきたので、思わず手を止めた。


「何だろう?」


 耳を澄まして聴く。


 ―オ~イ……


 ラジオから、中年男の重苦しい呼び声が流れてきた。

 最初は、どこかのラジオ局の放送の一部なのだと思った。

 そのまま聴いていると、


 ―勉強は捗っているか?


 と、聴こえてきた。

 「明日はテストだよ」と、冗談半分で答えると


 ―そうか。お前はいつも一夜漬けだな。


 と、まるで呼応するかのように話しかけてきた。

 それでも、これはラジオドラマの一部なのだろうと思っていた。


「あなたは誰ですか?」


 ―俺の名は……ザー……ザザ……。



 肝心なところで音声が乱れる。



 ―俺は20年前に死んだ。


「へえー」



 ―このラジオは死者と生者を繋ぐラジオ。お前は死者の俺とこうして会話をしている。


「へえー」


 臨場感のある、良く出来たドラマだなあと感心した。


 ―俺は何でも知っている。お前の秘密も。


「僕の秘密⁉」


 僕の知らない人が、僕の秘密を握っている。

 ドラマだと思っていても、ゾッとする。


「……僕の秘密って何?」


 ―好きな子を覗き見しているだろ。


「まさか!」


 声の主が言う通り、僕は好きな子の全てを知りたくて、いろんな事を覗き見している。

 ネットの投稿チェックは勿論毎日。

 学校でも常に目で追いかけて、自宅まで行ったこともある。

 その時に魔が差して、風呂場を覗いてしまった。

 でもそれは、誰にも知られていないはずだ。

 どうしてこの人が知っているのだろうか。

 この頃にはもう、ドラマとは思っていなかった。

 このラジオが死者と会話出来ることは本当らしい。


「どうしてそのことを知っているの? 誰にも言っていないのに」


 ―死ぬと行きたいところに自由に行ける。壁も通り抜けられる。

  死者には時間の概念がない。だから過去にも行ける。

  たった今、俺はお前の過去を見てきた。


「そんなことが出来るんだ!」


 死者が意外に自由に動けることに驚いた。


 ―生きていて楽しいか?


「どういう意味?」


 ―この世は地獄だろう。


「うーん、そうとも言えるけど」


 ―この先、生きていて楽しい事なんか何にも起きないぞ。女に振られ、大学受験に失敗し


「そんな!」


 僕の痛い所を容赦なく突いてくる。

 確かに僕は、女とこどか男にも馬鹿にされてまともに相手にされなくて、成績も悪く、間近に迫った大学受験にも自信が持てなくて

勉強から逃れようと現実逃避で深夜にラジオを聴こうとしている。


「僕はこれから先、どうすればいいんだろう……」


 ―こっちの世界にくれば、楽になるぞ。好きな子の近くにいられるし、行きたいところに自由に行ける。


「そっちの方が、楽しそうに思えてきた」


 ―おお、そうだ。こっちへ来い。


「そうだね」


 死ねば好きな子にいつでも会えると夢見た僕は、部屋にあったビニールテープを手に取った。



 翌朝。

 少年の変わり果てた姿が家族によって発見された。

 その後にラジオは捨てられたが、巡り巡って再びリサイクルショップの店頭に並べられた。

 昭和レトロの家電好きによって購入されたが、購入者は、数日後に死体となって発見された。



「このラジオ、売っても売っても手元に戻ってくるんだよな」


 リサイクルショップの店主は、とても不思議がりながら、今日も店頭に昭和レトロのラジオを並べるのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 甘い言葉には気をつけなければなりませんね。 読ませていただきありがとうございました!
[良い点] あっさりとしたやり取りが怖さを引き立ててました。 [一言] 迂闊にリサイクルショップで買い物できないです(><)
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