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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
料理長の仮面 番外編
95/120

08

「いたぞ! こっちだ!」

 追手の声でエリオは我に返る。

 どちらへ行こうか迷っていると、少年が「こっち」とエリオの手を掴み駆け出した。

「ここは特に迷いやすい路地だから、たぶん少し走れば撒ける」

「あ、あぁ」

 右に、左に、左に、また右にを何回か繰り返すと追手の足音が聞こえなくなった。

「フルールさん、もう大丈夫です」

 汗を流しながら、肩で大きく呼吸をするフルールに声をかける。

「はっ、どうして、私たち、はぁ、追われたのでしょう」

「どうでしょう、まだ確かなことは言えませんが」

 安心させるように肩に両手を置くと、フルールはエリオの胸元に飛び込んできた。

「私、怖いです! 助けてくださいエリオさんっ」

 エリオの心臓が大きく跳ねる。

 その体を抱き締めて、大丈夫だと、自分がついていると言わなければならないのに、手が動かない。舌が回らない。

 背後から突き刺さるような視線に体が強張って何もできない。

「とりあえず、裏道を出よう」

 少年が先導するように歩き出す。

「あ、ああ」

 ようやく発せられた言葉はひどく弱々しいもので、それを聞いたフルールはそっと離れた。

「じゃぁ」

 裏道を抜けた後、少年はそのまま走って駆けて行った。

「あの子のおかげで助かりましたね」

 口を開かず、呆然と立ち尽くし、少年の後ろ姿を眺めるエリオの袖をフルールが引っ張る。

 我に返ったエリオが「あ」と漏らし、フルールを見た。

「あの、私、思い出したんです」

「え」

「あれは父でした」

 フルールはあの日、自分が見たのは父だと分かったが、それを信じたくない故に父ではないと思い込んだ。そして隣を歩いていたのは法務大臣の妻だった。よくパーティーで見かけていたのでその存在を知っていたと彼女は語った。

「きっと私は父にとって邪魔な存在になってしまったのでしょう。あの男たちは父か、それとも法務大臣の奥様からの追手でしょう。ごめんなさい、関係のないあなたを巻き込んでしまって」

 フルールはエリオの手を、宝物を持つかのように包み込んだ。

「私、とても嬉しかったです。あなたが話を聞いてくれたこと、一緒に食事をしてくれたこと、愛してくれたこと、すべてが幸せでした」

 吊り目がちな目に涙が溜まる。

「だから、もうあなたを危険な目に遭わせたくない」

 優しく微笑む彼女の目から涙が零れ落ちた。

「もう、お別れです」

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