06
「これがフルール嬢から聞いた情報です」
ハロルドに報告し、これでエリオ・パナリアは終わりだと思っているとハロルドは眉間に皺を寄せた。
「足りない」
「は?」
「まだ情報が足りない。財務大臣がどこかに金を流しているのは間違いない。それを聞いてこい」
リーシャは舐めていた飴を奥歯で噛み砕いた。
「そんなこと、あんな三女が知っているわけないでしょう」
「三女に家出をした理由聞いたのか」
「ええ、家出って言うより一方的に父親に追い出されたようです。母親や姉たちがこっそりと屋敷に入れてくれるので、金には困っていないようですが」
彼女は頬に涙を伝わせながら言った。
帰れない、と。
「追い出された原因は、本人は知らないそうです」
「いや、知っているだろう」
今度はリーシャの眉間に皺が寄る番だった。
「どうして、そんなことが分かるんですか」
「見られてはまずいものを見られたから、娘を追い出した。それを娘は知らないと言うが、違うな。覚えていないだけだ」
大きなため息が出そうだったがそれを飲み込む。
体に悪いものが溜まっていきそうだ。
「じゃぁなんですか、俺にあるか分からない記憶を呼び戻してこいっていうわけですか」
「そうだ。それがお前の仕事だろう」
飴を噛み砕いてしまったせいで噛むものが歯だけになってしまった。
奥歯が削れそうだ。
それが今日の昼の話。
「どうかされました?」
星が瞬く空の下二人は公園を静かに歩いていた。
「いえ」
前よりもさらに豪華な衣装を身に纏ったフルールが心配そうにエリオを見上げる。心配をかけまいとエリオは優しく微笑む。
「ところでフルールさん、以前父君に追い出されたと言っていましたが、本当に原因は分からないのですか?」
尋ねられたフルールは首を左右に振った。
記憶の掘り出し方なぞ知らんぞ、と叫びたくなったが「そうですか」と振り絞るように言葉を紡いだ。
そのとき、反対側から同じように男の腕に絡みつきながら歩く女の姿が見えた。
二人はそのまま愛の言葉を囁きながら隣を通っていく。
ここはそういう二人組が多いので特に違和感を持たずに歩いていたが、フルールがその二人を目で追っていた。
「あの、フルールさん?」
エリオが声をかけると、「あっ」と顔を正面に戻した。




