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わがまま令嬢とその侍女  作者: たなぼた まち
料理長の仮面 番外編
92/120

05

「はぁぁぁぁぁ」

「料理長、最近ため息多くないですか?」

 定位置に座り込むリーシャにロンが今日も声をかけた。

「あー、なんか体の悪いものを出している、みたいな?」

「そんなもの、この場所で吐かないでくださいよ」

 渋い顔をした少年に「悪い」と謝る。

「大丈夫ですか?」

「なにが?」

 リーシャが顔を上げると思ったより近くにいたロンの大きな目がリーシャを映した。汚れを知らないような綺麗な瞳が汚れた自分を映し出していて、リーシャは視線を逸らした。

「いや、疲れている?」

「なんで聞いてきたお前が疑問形なんだ」

「うーん、違う、疲れているというより」

 顎に手を当て彼は天井を仰いだ。

 そして、閃いたのか「あっ」と声を上げた。

「傷ついてます?」

 またしても綺麗な瞳がリーシャを映す。

 その中のリーシャは目を丸くしているように見えた。

「いや、別に痛いとこはないが……」

「あっ、じゃあ傷ついてるじゃなくて、悲しんでる!?」

「お前……適当に言ってれば当たると思ってないか?」

 うぅん、と唸りながらまたしてもロンは天井を仰いだ。

「ほら、早く仕込みしろよ」

 リーシャは重い腰を上げる。

「あれ、どっか行くんですか?」

「あぁ、ちょっとな」

「あっ、明日の夜」

 ロンが何かを言いかけたが足を止めずにリーシャは厨房を出た。

 庭に出ると冷たい空気がリーシャを包み込む。

「悲しいか」

 首をすくめ、ベンチに腰を掛ける。ボアズが毎日手入れしているだけあって、どこを見ても美しかった。でも心が動かない。

 最近、何を思った。

 喜怒哀楽、なんでもいい。何を思った。

 空を見上げるが、何も思い浮かばなかった。

「あー」

「何しているの?」

 空でいっぱいの視界にアソラが現れた。

「あー、空見てる……?」

「何故、疑問形?」

 今、隣にマリーの姿はない。そのうち呼ばれるだろうな、とリーシャは思った。

「なぁ、アソラ」

「なに」

「お前さん、最近なんか楽しかったり、怒ったり、悲しかったりすることあったか?」

 空を見上げていた体勢から、普通に座り直しアソラに尋ねる。

「いや、特にない」

 即答だった。

 そんなもんだよな、と口を開こうとすると「でも」と先にアソラが口を開いた。

「嬉しいことはあった」

「嬉しいこと?」

 アソラは滅多に表情が変わらない。

 中には機械じゃないかと疑うやつもいる。

 そのアソラの表情がほんの少しだけ和らいだ気がした。

「マリー様が」

「アソラァァァァッ」

 言葉を遮ってマリーの声が轟く。

 アソラは声がした方へ視線を向け「ごめんなさい」と謝って歩き出した。

 一人残されたリーシャ。

「嬉しいか」

 どうしたら嬉しいと思うのか。

 誰に何をしてもらえば嬉しいと思えるのか。

 自分の中の最後の嬉しいと感じたときは、いつだった。

 目を瞑ると、あるテーブルが浮かんだ。

 三人で囲める決して広いとは言えないテーブル。


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