05
「はぁぁぁぁぁ」
「料理長、最近ため息多くないですか?」
定位置に座り込むリーシャにロンが今日も声をかけた。
「あー、なんか体の悪いものを出している、みたいな?」
「そんなもの、この場所で吐かないでくださいよ」
渋い顔をした少年に「悪い」と謝る。
「大丈夫ですか?」
「なにが?」
リーシャが顔を上げると思ったより近くにいたロンの大きな目がリーシャを映した。汚れを知らないような綺麗な瞳が汚れた自分を映し出していて、リーシャは視線を逸らした。
「いや、疲れている?」
「なんで聞いてきたお前が疑問形なんだ」
「うーん、違う、疲れているというより」
顎に手を当て彼は天井を仰いだ。
そして、閃いたのか「あっ」と声を上げた。
「傷ついてます?」
またしても綺麗な瞳がリーシャを映す。
その中のリーシャは目を丸くしているように見えた。
「いや、別に痛いとこはないが……」
「あっ、じゃあ傷ついてるじゃなくて、悲しんでる!?」
「お前……適当に言ってれば当たると思ってないか?」
うぅん、と唸りながらまたしてもロンは天井を仰いだ。
「ほら、早く仕込みしろよ」
リーシャは重い腰を上げる。
「あれ、どっか行くんですか?」
「あぁ、ちょっとな」
「あっ、明日の夜」
ロンが何かを言いかけたが足を止めずにリーシャは厨房を出た。
庭に出ると冷たい空気がリーシャを包み込む。
「悲しいか」
首をすくめ、ベンチに腰を掛ける。ボアズが毎日手入れしているだけあって、どこを見ても美しかった。でも心が動かない。
最近、何を思った。
喜怒哀楽、なんでもいい。何を思った。
空を見上げるが、何も思い浮かばなかった。
「あー」
「何しているの?」
空でいっぱいの視界にアソラが現れた。
「あー、空見てる……?」
「何故、疑問形?」
今、隣にマリーの姿はない。そのうち呼ばれるだろうな、とリーシャは思った。
「なぁ、アソラ」
「なに」
「お前さん、最近なんか楽しかったり、怒ったり、悲しかったりすることあったか?」
空を見上げていた体勢から、普通に座り直しアソラに尋ねる。
「いや、特にない」
即答だった。
そんなもんだよな、と口を開こうとすると「でも」と先にアソラが口を開いた。
「嬉しいことはあった」
「嬉しいこと?」
アソラは滅多に表情が変わらない。
中には機械じゃないかと疑うやつもいる。
そのアソラの表情がほんの少しだけ和らいだ気がした。
「マリー様が」
「アソラァァァァッ」
言葉を遮ってマリーの声が轟く。
アソラは声がした方へ視線を向け「ごめんなさい」と謝って歩き出した。
一人残されたリーシャ。
「嬉しいか」
どうしたら嬉しいと思うのか。
誰に何をしてもらえば嬉しいと思えるのか。
自分の中の最後の嬉しいと感じたときは、いつだった。
目を瞑ると、あるテーブルが浮かんだ。
三人で囲める決して広いとは言えないテーブル。




