03
「はぁぁぁぁ」
でかいため息をつきながら、いつもの定位置で丸まって座っているリーシャにロンが声をかけて来た。
「料理長、珍しいですね」
「あ? 何が?」
「髭、いつも剃ってないじゃないですか」
自分の顎に手を当てるとつるつるした肌触りに違和感を覚える。リーシャのときはあまり身だしなみに気を付けなくても許されていたからだ。
「あー、手が滑って剃っちまったんだよ」
「へー、そんなもんなんですね」
つるつるの毛穴さえない見えないロンが理解できないまま納得した。
「どうだ、良い男だろ?」
かっこつけたリーシャを見てロンは「かっこいいですよ」と、今更何を言っているんだという顔をした。
「え?」
想像していた返事とは違う返答が来て戸惑ったのはリーシャだった。
「いやいやいや、え? 本当にかっこいいって思ってる? 医者行った方がいいんじゃないか?」
ロンは夕食の仕込みを始める。
洗ってきた野菜の皮を慣れた手つきで剥き始める。最初来たときの彼は人参と自分の指を見間違えて切り落としそうな勢いだったが、いつの間にかリーシャを除く誰よりも包丁を上手に扱えるようになった。
「そりゃ、ロイドさんのように誰もが振り返るような華のあるような顔じゃないですけど、料理長だって普通にかっこいいと思いますよ。言われたことないんですか?」
昨日言われたことを思い出した。
しかし、あれはエリオ・パナリアとしての賛辞として受け取っていて、リーシャ・デュカスとして言われたことなかった。
「いや、無いな」
「ほんとですか。世の中の人たちは見る目がないですねー」
するするっと野菜の皮が薄く綺麗に剝かれていく。
「お前の目が悪いんだろ」
ロンはその言葉を聞いて口を尖らせ、包丁を置いた。
「誰がなんと言っても俺は料理長がかっこいいって思ってますからね!」




